●子なしなのに立派な墓

 しかし、伝統的な「家の墓」の概念も、根強く残る。都内に住む会社員のBさん(女性、49)は、実の両親と義理の両親の価値観が正反対で困惑している。

「実の両親は『子どもに迷惑をかけたくない』と夫婦で入る樹木葬を契約してきたほど進歩的な考えの持ち主。一方、瀬戸内地方に住む夫の両親は昔ながらの墓を重視するタイプで、自分たちが入るための立派な墓地を購入しました。特に義父は墓石にもこだわりがあるようで、よその墓を見ては『これは高価なナントカ石だ』などと分析していて、自分の墓にも国産の高級墓石を使いたいようです」

 その高価な墓石は果たして自分で買うのか、あるいはBさん夫婦が用意してやらなければならないのかが気になるが、さすがにそんなことは聞けない。もちろん、Bさん夫婦も同じ墓に眠ると考えているようだ。

「私たち夫婦に子どもはいないので、遠方にそんな立派な墓を建てられても……」

 生まれ育った地方を出て都会で暮らす人も多く、働く世代のライフスタイルは多様化している。墓を継承する人がいなかったり、遠方で管理が大変になったりするケースも多い。こうした場合、今ある墓を閉じて、引っ越しさせることは可能だ。これを「改葬」といい、「墓じまい」とも呼ばれる。

 別の場所に新しく墓をつくって遺骨を移転させるほか、継承する人がいなくなる場合は複数の人を合同で祀る合祀墓に入れる(合葬あるいは永代供養)といった方法が考えられる。

 一般社団法人全国優良石材店の会の相談窓口にも、改葬に関する問い合わせは多いという。

「故郷を離れて都会に根を下ろした団塊世代が、遠くて親の墓参りに行けないという理由で検討するケースが多い」(全優石の担当者)

 千葉県に住む会社員Cさん(男性、58)は、車で1時間ほどの距離にある母の実家の墓を改葬した。5人の先祖が眠る墓だが後継ぎはおらず、母はCさんが継ぐようにと言い置いて亡くなった。

「母が眠るわが家の墓地に合祀墓があることを知ったので、そこに移すことにしました」

 母の実家の墓を引き払い、持ってきた遺骨をこの合祀墓に入れてもらった。自分の家の墓と同じ敷地にあるので、墓参りの際にはこの合祀墓にも手を合わせるようになった。

「合祀といえど同じ墓地にあるので、ついでにお参りできるのが気に入ってます。亡き母も親きょうだいの墓が近くにきて喜んでいるでしょう」

 父方の墓と母方の墓を一緒にした人もいる。宮城県に住む会社員のDさん(男性、59)は、母の実家の墓を改葬し、中の遺骨を父方の実家の墓に入れた。母に男兄弟はおらず、独身だった亡き叔母が自分の代で無縁墓になることを気に病んでいたという。

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