若い世代だからこそ、実家と寺との関係に疑問を持つこともある。大阪在住の会社員のFさん(女性、32)も、九州の実家で法事などがあるたびに「寺と縁を切ろう」と提案しているが、聞き入れてもらえないとため息をつく。

「住職がまさに『金の亡者』。気前のいい檀家とそうでない檀家では、態度や待遇はもちろん着てくる袈裟まで違う。『上客』だった祖父が亡くなった時には、呼んでもいないのに毎週お経をあげにきて、お布施を渡すまで帰らないので家族が大迷惑していました」

 この住職は子どものころから素行不良で有名で、両親も親戚も苦々しく思っているが、地域に同じ宗派の寺がないため寺を変えるのは無理だとあきらめているという。

「代替わりしたときに相当数の檀家が離れたようですが、その時に法外な『手切れ金』を請求されたという噂があり、両親はそれにも怖気づいているよう」

 菩提寺とのトラブルを抱える人をサポートしている柳谷観音大阪別院泰聖(たいしょう)寺の純空壮宏(じゅんくうそうこう)副住職はこう話す。

「菩提寺が求めてくるお布施や寄付が高額のため、距離を置いているという人は多い。そうなると親族が亡くなっても秘密にせざるを得ず、僧侶派遣サービスなどを利用してこっそり葬儀や法要を済ませるケースも」

●人質ならぬ「骨質」

 こうした場合は菩提寺にある墓に納骨できず、遺骨は家に置いたままだ。菩提寺に墓を閉じる改葬を申し出ると、高額な「離檀料」(檀家を離れる費用)を請求される例もあるという。

「業界では人質ならぬ『骨質』という言葉があるほど。遺骨を盾に数百万円もの離檀料を請求して檀家をつなぎとめたり、最後に取れるだけ取ってやろうと考えたりする寺は少なくない」(純空副住職)

 やむなく改葬を断念する人や、「若い後継ぎなら話が通じるかもしれない」と代替わりを待つ人もいるのだとか。

「檀家制度は現代社会にそぐわなくなっており、物理的な距離があったり心情的に嫌だと感じたりするなら無理に付き合いを続ける必要はないのでは。葬儀や法要など必要な時だけ寺を利用する方法でも十分供養はできます」(同)

●葬儀一時、墓一生

 気がかりではあるものの、親が死んだときのことなど考えたくはないものだ。それでも二村さんは「亡くなった時にはじっくり考える時間はないので、後悔が残りやすい。葬儀は済んでしまえば終わるが、墓の問題はずっと続くので元気なうちに親子で考えておきたい」とアドバイスする。

「子どもが墓の話を切り出しにくいと感じるのと同様に、親も言い出しにくいと思っているもの。幸い、日本にはお盆やお彼岸、法事など、墓のことを話題にしやすい行事がたくさんあるので、少しずつ話をしてみましょう」

 ただし、気がかりなことを一度に全部相談すると、年老いた親には負担になるという。

「自分の死後について考えなければならないことが多すぎると気持ちが暗くなり、『終活ストレス』につながります。時間をかけて少しずつ切り出し、考えてもらうのがおすすめです」

(ライター・森田悦子)

AERA 2016年8月15日号