80年代後半に子なし共働き夫婦を指す「DINKS」が注目されたが、近年の子ども不要論は「収入が減少しているだけに根が深い」(根本氏)とか(撮影/写真部・東川哲也)
80年代後半に子なし共働き夫婦を指す「DINKS」が注目されたが、近年の子ども不要論は「収入が減少しているだけに根が深い」(根本氏)とか(撮影/写真部・東川哲也)

 子どもをつくりたくないという男性が増えているという。そこには考え抜いたすえの決断があった──。

結婚する前は『ハワイで子どもを産むのもいいかもね』なんて話すときもあったんです。でも、実際に結婚生活がスタートしてから、お互い良くも悪くも“家庭的”でないことがわかった」

 都内で歯科医院を経営するAさん(46)は今年で結婚10周年を迎える。二つ年下の妻は、結婚前と変わらず、航空会社に勤務。キャビンアテンダントであるため、年間3分の1近く、家を留守にしている。

 一方、Aさんは毎日22時まで自身が経営する歯科医院で患者の治療に当たる。その合間には、社会貢献活動にも力を注いでいる。共に確立された生活スタイルを崩さないために、「子どもを持つ」選択肢を放棄したという。

「39歳の弟は未婚。妻は3姉妹の長女で、40歳と35歳の妹がいますが、2人とも未婚。そんな家庭事情もあって、どちらの両親も『早く子どもを』とは言わない。なんのプレッシャーもないので、子どもを持たないことの“不自由さ”も感じません」(Aさん)

 このように「子どもを持たない」選択をする男性が近年、増えている。恋愛・結婚・家庭に関する心理カウンセリングを専門に行う根本裕幸氏は次のように話す。

「ここ5、6年で『子どもをつくりたくない』という相談が増えています。経済的な理由を挙げる人が多い傾向にありますが、実際には家庭環境が影響していることが少なくありません」

 このような男性には、「トラウマに似た幼少期の体験がある」と、根本氏は分析する。

「現在30~40代の団塊ジュニアおよびポスト団塊ジュニアは、核家族化が急激に進み始めた後に生まれた世代。おじいちゃんやおばあちゃんも子育てを手伝う時代から、母親が子育てのすべてを担う時代に変化した。そのため、子育ての大変さが、刷り込まれている」

 子育てを母親一人で担うと、おのずとそのストレスのはけ口は子どもに向けられる。塾や習い事を押し付けられ、幼少期の楽しい思い出が希薄化するなかで、徐々に子育てに対して楽しさを見いだせない男性が増えたというのだ。

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