「東京は楽しいことがありすぎて、ヒマを持てあますことはない」

 だが、単に遊びほうけているわけではない。石川県の実家に帰省した際には、家族とたびたび「結婚しないこと」について話し合ってきた。

「親父に『なんで結婚したほうがいいのか、理由を言ってくれ』と言えば、『お前はアホか』と言われる。そんなやり取りを何度も繰り返しつつ、僕は根気よく“いつかやってくる現実”を説き続けた。結果、今ではある程度の理解を得られるようになりました」

 その現実とは、結婚しても子どもがいても、死ぬときは一人という事実。極論に聞こえるが、結婚や出産をすることで、人はある種の思考停止に陥っていないか?とCさんは問いかけるのだ。

「パートナーや子どもがいれば、年をとっても安心と言われることが多いのですが、それによって将来のリスク管理について考えることを疎かにしている人が多いように思う。一人で生きることを選択した自分のほうが、ずっとシビアに将来を見つめている。だから、子どもがいる弟たちにも『親が死んだらどうするか?』という話を頻繁にする。みんな『それって今すべき話?』みたいな顔をされますが(笑)」

 子どもをつくらないという選択も悩んだすえのものだった。それぞれが自身の人生を真剣に見つめているのだ。(ジャーナリスト・田茂井治)

AERA 2016年8月8日号