ただ、現地治安当局の情報では、実行犯の若者たちは政府が非合法化した現地のイスラム組織のメンバーだったとされる。彼らがアラビア語で「アッラー以外に神はない」と描かれた黒旗の前で自動小銃を持ちポーズをとる写真も出ている。黒旗はいまはISの旗として知られるが、もともとは「ジハード(聖戦)旗」と呼ばれ、イスラムの実現のために「ジハード」を唱える過激派に共通する印だ。若者たちは、ISを含む「聖戦思想」に影響されていたのだ。
●IS絡みにも2種類
一方、ダッカ事件の2日後にあったイラクの首都バグダッドの爆弾テロは、死者計300人に迫る最悪の事態をもたらした。イラクでは、6月下旬にバグダッドの西60キロにあるファルージャから2年半ぶりにISを排除したばかり。掃討作戦にはイラク軍・治安部隊だけでなく、政府を支持するシーア派民兵組織も参加し、ファルージャのスンニ派住民に対する虐殺や暴行など深刻な人権侵害が報告されている。
ISに軍事的に勝利してもスンニ派住民の反発を買ったことで、政治的には失敗との評価も出ていた。国民の分裂がテロの遠因となっていると見られる。
IS絡みのテロと言っても、トルコやイラクなど隣接する国々でISが直接関与するものと、欧州やサウジアラビア、今回のバングラデシュのようにIS支配地から離れている場所で、現地のイスラム過激派がISに影響されて起こしたとみられるものに分けられる。
●遠い世界の話ではない
バングラデシュ治安当局から、実行犯の若者たちが豊かな階層出身だったと発表されたことで、日本では「事件は貧困とは関係ない」という見方も出た。しかし、バングラデシュは一人当たりGDPが13万円前後という世界の最貧国であり、3割の国民が貧困層である。
イスラムでは、自分たちが貧困であるかどうかではなく、社会に「貧困の蔓延(まんえん)」と「富の独占」があることが「悪」と理解される。イスラムの聖典コーランでは富は神の所有であり、
「富裕層だけが富を分け持つことがないように、孤児や貧困者に分け与えよ」
と記述されている。