イスラム世界で過激派の主力を担うのは主に富裕層出身の若者たちで、富裕な若者たちがイスラムの実践を掲げるイスラム組織に参加し貧困救済活動に携わることで社会の矛盾に出合い、イスラム主義の活動家になることは珍しくない。

 イスラム組織は、社会活動をし選挙に参加する穏健派と、武装闘争を行う過激派に分けられる。批判政党が議会に参加できれば穏健派が活動できるが、政府が抑圧的になれば、若者たちが過激派に流れることになる。バングラデシュでも与党「アワミ連盟」が強権化し、イスラム主義者を過剰に追い詰めている、という指摘がある。強権化と反政府運動の過激化が、事件の伏線になっている。

 日本人が多く犠牲になったことはどう考えればいいのか。パリ、ブリュッセル、イスタンブールでのテロも無差別殺戮(さつりく)だったが、日本人は遭遇しなかった。ダッカで7人が亡くなったことは、ISテロが遠い世界の話ではないという現実を突きつけた。

●政府の情報が遅れたら

 とりわけ「犯人は鋭い刃物を使った」という現地の治安当局の発表は、湯川さん、後藤さん殺害を思い起こさせ、おののいた日本人は多かっただろう。しかも、今回犠牲になったのはIS地域に入っていった日本人ではない。親日国バングラデシュに滞在したJICA(国際協力機構)の関係者だ。テロの温床ともなる貧困をなくそうとする日本の平和的支援を担う人々で、彼らが犠牲になったことはテロの不当性をより浮き彫りにした。

 気になったのは、日本政府の事件発表が遅れ、発生から半日の間、日本人の犠牲が国際ニュースに出てこなかったことだ。BBC(英国放送協会)だけが日本時間2日午前6時の時点で「日本人6人」と報じていたが、日本では午前8時半の菅義偉官房長官の会見で、「人質に日本人がいる可能性」に触れるに留まった。午前11時前の治安部隊突入の時点でも日本政府は日本人の確認情報を出していない。人質はJICA席係者。日本政府も情報を得ていたはずだ。

 世界が同時進行的に情報を共有する中で、日本発の情報の遅れが目立ったことは、安全対策の懸念さえ感じさせる。テロが単発ではなく連続すれば、情報の遅れは在留邦人の対応の遅れにつながりかねない。(中東ジャーナリスト・川上泰徳)

AERA  2016年7月18日号