子どもの貧困格差が小さく、子どもにやさしい国として知られるフィンランド。日本にはない子どもに手厚い政策が展開されている。現地を訪ねた。
「サタサタ ロピセ ピリピリポン」
小ぎつねコンコンのメロディーにのせて、子どもたちが一斉に歌いだす。小さな手にはお皿とスプーン。
ここはヘルシンキ市内の“レイッキ(遊ぶ)プイスト(公園)”。屋内施設が併設された、市が運営する公園だ。夏休み期間中の平日は、0歳から16歳まで誰にでも無料で配られる昼食を目当てに、子どもたちが列をつくる。訪ねたのは小雨が降る6月。日替わりメニューはひき肉のスープだ。肌寒い日にうってつけの料理に皆、満足げ。
●ネウボラで継続面談
フィンランドの小中高校生の夏休みは、6月から8月まで10週間にも及ぶ。給食のない夏休みに欠食になり、新学期に痩せて登校する貧困家庭の児童が問題になっている日本に対し、フィンランドではあらゆる面で「予防」措置がとられている。
その最たるものが「ネウボラ」と呼ばれる妊娠から出産、小学校入学前までの継続的サポートだ。妊娠期間中は6~11回、その後も定期的に面談や健診が無料で受けられる。信頼関係が築きやすいよう、基本的に1人の保健師が担当するが、相性が合わなければ“チェンジ”できる。両親には、自分の子ども時代の過ごし方や家事の分担、経済状況や失業への不安など約50項目のアンケートもとる。
子どもの貧困格差が先進国で3番目に小さいフィンランドだが(2016年、ユニセフ調べ)、約2割の子どもや家族が特別な支援を必要としている。ネウボラでの保健師たちの細やかな聞き取りで、貧困や虐待など家庭が抱える問題が顕在化することが多い。国立保健福祉センターのトゥオヴィ・ハクリネン博士は言う。
「健康な子どもたちになぜ健診を受けさせる必要があるのかと批判する人もいますが、問題が起きる前に察知することが大事なのです。さらにコスト面でも有効だと分かってきました」
イマトラ市で行われた子ども支援予算の調査結果をみてみよう。ネウボラや家庭訪問サービスなどの「予防」と、課題のある児童の保護や治療などの「事後ケア」のどちらに投資したほうがより効果的か実験した。すると、07年から予防に倍額を投じたところ、総支出が減り始めたのだ。今後は学校の保健サービスなど予防のさらなる充実をはかる予定だ。
この日3人の子どもを連れてネウボラ健診に来ていた夫妻は、籍は入れていない事実婚。経済状況や婚姻形態にかかわらず平等に支援が受けられるのも特徴だ。保健師は1歳になる男児の身体測定をテキパキとこなした後で、体に傷がないかも見ているのよ、と教えてくれた。
ネウボラでは問題を発見次第、保育園、児童相談所、自治体の社会保障窓口、病院などの専門機関と連携して対処している。
12年、国民に「連携」の重要性を痛感させる事件が起きた。8歳の少女が父親からの虐待で死亡したのだ。体にあった傷は89カ所。学校や近隣住民から何度も通報があったにもかかわらず、支援の手は届かなかった。裁判では情報共有や連携ができていなかったことなどを理由に、2人のソーシャルワーカーが有罪に。家庭が抱える問題を解決するのは社会の責任だという国家の意思が伝わってくる。
●アプリで情報共有
日本では縦割り行政や個人情報保護が壁で、情報共有できないという問題もあるが、フィンランドではどうしているのか。