アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は海上保安庁の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■海上保安庁 横浜海上保安部 警備救難課長 太刀川征利(40)
救助が必要な人を抱えた潜水士が、ゆっくりと水面へ上がってきた。
「転覆船の船底に取り残された人を救助する訓練ですね」
横浜海上防災基地にある潜水訓練用プールの窓をのぞきながら、太刀川征利が説明してくれた。救助計画やパトロール計画を立て、部下に指示を出し、現場をコントロールする立場の太刀川は海に潜ることはないが、その声はどこか誇らしげだ。
小さいころから乗り物好き。船の世界にあこがれた。やがてそれは、「国民の安全を守りたい」という思いと結びつき、海上保安大学校へ進み、海上保安官になった。
1999年12月、横浜海上保安部で巡視船の主任航海士となったのを皮切りに、海上保安庁本庁での勤務や国土交通省への出向など「陸」での勤務を交えながら、神戸や呉(広島県)の巡視船に配属され、「船乗り」として日本の海を守ってきた。
沖縄に領海警備対策室長として着任したのは、尖閣諸島周辺海域で緊張が高まっていた2013年。中国公船が領海侵入するたびに携帯電話が鳴り、深夜でも非番でも呼び出され、対応に追われた。
「そのうち、鳴ってないのに、携帯が鳴ったと思うようになりました」
昨年、横浜海上保安部に戻り、現職に就いた。部下15人とともに、近海の水域だけでなく、小笠原諸島周辺の海で起きる犯罪の取り締まり、海難の際の人命救助などを担う。事故や火災が発生すると、太刀川の指示が人命を左右することもある。
「今、現場で何が起きているのか。船はどういう動きをしているのか。現場をどれだけイメージできるかが大事だと思います。上司の指示を仰ぎながら、部下を含めていろんな人の意見を聞いて判断し、その判断には責任を持ちたい」
どんな立場になっても、「自分は船乗りだ」というプライドは持っていたいと思う。
「塩気が抜けたら、おしまいですから」
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・大川恵実)
※AERA 2016年2月22日号