室屋義秀さんと練習機(撮影/写真部・東川哲也)
室屋義秀さんと練習機(撮影/写真部・東川哲也)
機体の重さは軽自動車ほど。回転時にも位置が分かるよう、機体の下部は透明な強化プラスチック。コックピットには、曲技飛行の科目をどう飛ぶかのメモがあった/5月18日、ふくしまスカイパーク(撮影/写真部・東川哲也)
機体の重さは軽自動車ほど。回転時にも位置が分かるよう、機体の下部は透明な強化プラスチック。コックピットには、曲技飛行の科目をどう飛ぶかのメモがあった/5月18日、ふくしまスカイパーク(撮影/写真部・東川哲也)

 最高時速370キロの空中戦「エアレース」に参戦する室屋義秀さん。アクロバット飛行世界一を目指すパイロットは、精悍な顔つきで、自らを「ウサギより亀」と謙遜する。

「レッドブル・エアレース」は、最高時速370キロ、最大重力加速度10Gという極限状態で飛行技術、知力と体力、精神力を競う世界最速のモータースポーツ・レースだ。今シーズン、最高位のマスターズクラスには14人のパイロットが参戦中。そのなかに唯一の日本人選手、室屋義秀さん(43)がいる。

 室屋さんが初めて参戦したのは2009年。14年には第2戦で3位の表彰台にも立った。

●国内で2回目の開催

 エアレースはレース専用機による高速の低空飛行競技のため、日本での開催は難しいとみられてきたが、昨年5月、千葉・幕張海浜公園での開催が実現した。今年も6月4、5日に同地で、ワールドチャンピオンシップの第3戦として開催される。ファン憧れのレースを生で見られるだけでなく、室屋さんの表彰台にも期待がかかる。

「エアレースの面白さはスピードとアクロバット飛行を同時に観戦できること。最速タイムを競うので結果も分かりやすい。飛行中の妙技やゴールする瞬間のスリルを間近で味わえるのは、エアレースならではです」

 と室屋さん。エアレースは、単に直線的に速さを競うのではなく、機体を急旋回させたり、90度倒したりして「旗門」のパイロンを通過していく。選手たちには、高度15メートルほどの低空を限界ギリギリのスピードで飛び、パイロンを通過したらすぐに機体を立て直して加速するという、最難度の飛行技術が求められる。

「一瞬のミスが大きなタイム差になる。どう飛ぶか、考えている余裕はありません。誰でも歩いたり走ったりする動作を、無意識にやっていますよね。それと同じようにベストコースをどう飛ぶか、体にたたき込んでから臨むんです」(室屋さん)

 千葉大会が室屋さんに有利なのは、開催直前まで本拠地・福島の「ふくしまスカイパーク」で練習できることだ。日本で曲技飛行の訓練ができる飛行場は少ない。室屋さんは98年にスカイパークに拠点を移したことで、練習できる環境が整った。地元のサポートに報いようと、NPOふくしま飛行協会の理事として、スカイスポーツを活用した地域振興に精力的に取り組む。東日本大震災の際には、避難生活を送る小中学生を招待し、エアショーを披露して励ますなどしてきた。

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