東京都自閉症協会役員の小川高根さんは、こう指摘する。

「子どもの障害を受容するまでの過程は人によって様々で、時間もかかります。診断されて間もない未就学の頃が、親たちが一番つらく危うい時期。その時こそ周囲の支えが必要です」

 小川さんは息子が3歳の時に自閉症と診断され、1年近く子どもの寝顔を見ては毎晩のように涙を流した。今はアロマテラピーの教室を開き、自閉症の子を持つ母親にもアロマの効用を伝える。

「息子の将来を思うと、一緒に死んだほうがいいのではと思いつめた時期もあった。悩みつつ、障害を受け入れつつ、前を向いて歩けるようになりました」

●「普通」より笑顔が大切

 厚労省では、子どもの育ちが心配と感じた早期からの親子支援を急ぐ。専門家による「ペアレント・トレーニング」に加え、保育士ら地域にすでにある人材を活用する「ペアレント・プログラム」も支援策の一つと位置づけた。だが「ペアトレ」「ペアプロ」を合わせても、全国での実施は231市町村だけだ。

 支援の仕組みがうまく機能していない現状もある。16年度予算で464億円投じる地域拠点の「発達障害者支援センター」の約6割は民間の法人に委託されているが、一部は丸投げ状態だとも聞く。本来は、都道府県や政令市がセンターの活動をバックアップすることが重要だが、そのための中核となるべき「発達障害者支援体制整備検討委員会」がうまく機能していない。そもそも委員会さえ設置していない自治体が6カ所ある。

「支援制度の普及はこれから。今年度からは国として各地に出向き、支援強化の普及活動を展開していきます」(日詰さん)

 家庭で「早期療育」に取り組む親も多い。子のために「いまやれること」があるのは、親として希望でもある。だが、自宅で療育を頑張る最中、母親がうつになり、父親が仕事を休んで手伝ったというケースもある。

 中学生になった息子がいる自閉症療育アドバイザーのshizuさんは、こう助言する。

「私自身、療育に集中しすぎて息子が『普通』になることを目指していた時期もありました。でも、そこを目指すとキツキツになる。大切なのは子どもが笑顔で生活できること、幸せになれること。そして少しずつ取り組むこと。プログラムが全部できなくても、お母さんがゆるんでいるほうが、長い目で子どもにとっていいと思うんです」

※この記事は集中連載「発達障害と生きる」の第1回です。AERA5月23日号から5回にわたり連載します
AERA 2016年5月23日号