●視線で自閉症見分ける

 先端の研究では、科学的に9割程度の精度で見分けられる健診法も開発されている。浜松医科大学子どものこころの発達研究センターなどを中心とする研究チームが赤ちゃんの「視線」探索で自閉症児を見分ける装置を開発。自閉症児に見られる視線を合わせない症状や社会性の障害に着目した。乳幼児健診などでの活用を目指している。

 早期発見・早期診断は、世界の潮流になりつつある。根本的な治療はないものの、「適切な対応」で、社会生活上の困難は軽減できると考えられている。

 埼玉県戸田市にあるなかじまクリニックを訪ねると、5歳10カ月のケンタくん(仮名)は、会話のトレーニングを受けていた。母親と月に1度通う。発達障害の療育経験が豊富な小児科医の平岩幹男さん(65)が新幹線のおもちゃを差し出すと、ケンタくんは、「ありがと」と受け取った。平岩さんの「できたね! タッチ!」の掛け声で、ケンタくんはすかさずパチンッとハイタッチをかわした。

「じゃあ、こんどは新幹線を二つください」
「どうじょ」
「やった! できたね!」

 ここで再びハイタッチ。

 ケンタくんは1歳半健診で発達の心配があると指摘され、2歳で自閉症スペクトラムと診断された。病院の言語療法や地域のクリニックでの運動・生活指導、自治体主催の親子教室などを渡り歩いてきたが、5歳になるまで一切言葉を発しなかった。母親は当時を振り返る。

「この子とは一生コミュニケーションはできないのかなと、諦めていた時期もありました」

 ケンタくんと平岩さんとのやり取りにも、「適切な対応」のノウハウがいくつも詰め込まれている。他にも例えば、「スモールステップ」という考え方を取り入れた対応の仕方がある。少し頑張ればできそうな目標を手前におき、それがクリアできたらまずほめて、また小さな目標を与える。子どもが「できる」経験を積み重ねることで目標を達成しやすくするやり方だ。

●診断直後が危うい時期

 日本で自治体が行う発達支援の通所サービスは、小集団での療育が中心。半年待ち、1年待ちはざらだ。児童デイサービスなど民間の療育施設は「発達支援サービスの規制緩和もあり増えたが、その内容も質も玉石混交」(平岩さん)という。

 せっかく適切な対応の「コツ」が存在しても、そのノウハウを伝達する適切な機関や専門家につながれなければ、「早期発見、早期絶望」になりかねない。発達障害の診断が早期化しても、レッテルだけ貼られて行き先のない漂流者を増やすだけだ。

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