現憲法では、個人の自由や権利は何よりも尊重されるべきものとされ、国家はその最大の侵害者として考えられているからこそ、好き勝手できないよう憲法で政治や国家を縛っている。これが「立憲主義」と呼ばれる近代憲法の精神だ。国家と国民が対峙しているイメージだが、自民草案は「国家と国民が同じ方向を向くものという印象がある」(青井さん)という。

 確かに自民草案の前文を読むと、「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」「我々は~活力ある経済活動を通じて国を成長させる」「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため」など、国民は国のために尽くすもの、という印象を抱く。

 さらに前文冒頭を読み比べてみても、「日本国民は~」と国民が主語の現憲法に対し、自民草案は「日本国は~」と国家が主語に書き換えられている。

 自民党がネット上でも公表している「日本国憲法改正草案Q&A(増補版)」には、「人権を保障するために権力を制限するという、立憲主義の考え方を何ら否定するものではありません」とあるが、青井さんは言う。

「自民草案には、国家があって個人がある、という価値観の転換があります。ここは注意して見ていかなければなりません」

(アエラ編集部)

AERA 2016年5月16日号より抜粋