広島県の公立高校への「推薦書」。志望動機、適正、学習意欲のほか、「人物所見」を記入する欄があり、中学校長名で印鑑を押して提出される。その選考基準は学校任せだ(撮影/写真部・岸本絢)
広島県の公立高校への「推薦書」。志望動機、適正、学習意欲のほか、「人物所見」を記入する欄があり、中学校長名で印鑑を押して提出される。その選考基準は学校任せだ(撮影/写真部・岸本絢)

 万引きしたとの誤った記録で高校推薦の道を断たれた中3男子が自殺した。その背景を取材すると、「誤り」だけではない根本的な問題が浮かび上がった。

 昨年12月8日、夕方。広島県府中町で、町立中学に通う男子生徒(当時15)が、下校後に自殺した。それだけでも悲しいが、3月8日に学校側が開いた記者会見で報告された事実は、まさに衝撃の一言だった。

 男子生徒への進路指導が佳境を迎えた昨年11月、学校は突然、私立高校への校長推薦・専願の選考基準を変更。法に触れる行為について、それまでは中学3年生だけを対象にしていたのを、1年生までさかのぼることを決めた。しかし、そのことを生徒や保護者には知らせず、サーバー内にあった指導記録をそのまま引用。1年生時の万引き事案の当事者に、誤って男子生徒の名前が入っていたものをそのまま写し、男子生徒に「万引きがありますね」「専願が難しくなった」と伝えた。しかも、廊下での立ち話で。

 そして、両親と一緒に臨むはずの三者面談に男子生徒は現れず、自宅で自殺していた。一連の事実が公表されたのは、県内公立高校の一般入試が終わった後だった。

 成績表の主要教科の欄には「4」「5」にあたる数字が並び、陸上部でも活躍。明るく素直で、友達も多かったという男子生徒。「なぜ推薦してもらえなかったのか」という絶望が渦巻いていたのは、想像に難くない。

 まだ15歳の子どもたちの多くにとって、高校受験は初めて自ら将来を選択するターニングポイントだ。その大事な局面でのいい加減な進路指導に驚くが、推薦基準が一つの学校内であっさりと、しかも入試直前になって変更されていたことにもひっかかりを覚える。これは、特殊な事例なのだろうか? 取材を進めると、推薦入試のグレーな基準とあいまいさが浮かび上がってきた。

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