厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」が2012年1月にまとめた報告書によると、パワーハラスメント(パワハラ)の定義はこうだ。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。※上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる」

 この定義に照らせば、前出の「平手打ち」は、部長という優位な立場にある男性による適正な範囲を超えた身体的苦痛にあたり、完全にアウト。実際、この男性部長は後日解雇されている。だが、その前段の「会議での全否定」や「お前なー!」は100%パワハラかというと、そうとは言いきれない。

 裁判でパワハラ被害者の弁護を数多く務めてきた、東京法律事務所の笹山尚人弁護士(45)によると、裁判でのパワハラ認定では、

「被害者の受けた言動や行動について、加害者側に『被害者が傷ついても構わない』『害悪を与えてやろう』という意思があったかどうか。そのことが原因で、別の第三者が不安を抱いたり、職場環境が悪化したりしたかどうか」

 が重視される。認定されれば、労働契約法第5条の「安全配慮義務」違反、また加害者の行為が民法709条の「不法行為」に抵触するとして損害賠償請求ができるのだが、白黒の判断は簡単ではない。

AERA  2016年2月15日号より抜粋