映画には、清勇会の川口和秀会長(62)が、各地の暴力団員が暴排条例で苦しむ声を紹介するシーンがある。たとえば、子どもが保育園から追い出されたり、銀行口座を開けず子どもの学校の授業料を引き落とせなかったり。そういう現実を前に、川口会長は「子どもはヤクザやないんやから」とつぶやく。「ヤクザと人権って不思議な組み合わせだと思った」と話す土方監督に対して、川口会長は「実際に被害を受けているから、ヤクザに人権はないのかと言うてるだけ」と話す。

 広島高裁は09年、広島市が指定暴力団の組員に市営住宅を明け渡すよう求めた訴訟の控訴審で、「社会的身分や地位に関する差別で憲法違反」とする組員側の控訴を棄却した。暴力団は「社会的身分」ではなく、差別にあたらないという判決だった。

 民事介入暴力対策に詳しい尾崎毅弁護士は、今回の映画化について「当事者に話をさせることには、一定の意味があると思います」と話す一方で、「暴力団であり続けることを選んだ人たちを社会が受け入れなければいけないのでしょうか」と言う。暴力団により一般市民が甚大な被害を受けた事件に長年、関わってきた。

「被害者の方の話を聞くと、なぜこの人たちがこんな目に遭わなければならないのか、強い憤りを感じます。裁判所も<暴力団は自らの意思で脱退することができるのだから暴力団構成員であることによる不利益は憲法に違反しない>と言っています。しかし、実際にやめることはそう簡単ではなく、やめた後にちゃんと生きていけるのかという課題はあります。暴力団を社会から排除するならば、暴力団をやめた人を社会がどう受け入れるかも考える必要があります」

AERA 2016年1月18日号より抜粋