イスラム圏からの移民・難民の受け入れに反対する団体「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人」(通称ペギーダ)のデモ。/2005年10月、独東部ドレスデンで(写真:gettyimages) @@写禁
イスラム圏からの移民・難民の受け入れに反対する団体「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人」(通称ペギーダ)のデモ。/2005年10月、独東部ドレスデンで(写真:gettyimages) @@写禁

 いち早く難民受け入れの姿勢を示したドイツ。しかし国内全体が歓迎ムードというわけではないようだ。「一種の時限爆弾」との声もある。

 ドイツ東部の小さなまち、チューリンゲン州アルテンブルク。コンクリートのアパートが立ち並ぶ一角に、何者かが火を放ったのは、昨年12月7日の未明だった。中東などからの難民ばかりが住む6階建ては、黒い煙に包まれた。

 アフガニスタン出身のサヘル・ノリさん(20)は、5階の自分の部屋でシャワーを浴びていた。臭いで異常に気づき、タオル一枚で階段を駆け下りた。息が苦しくなり、そのまま病院に運ばれた。体は煙で真っ黒になった。火は1階部分から出ていた。

 いまも同じアパート、同じ部屋に住む。体調は回復したものの、いつまた放火されるかと思うと「怖くて、夜眠ることができない」と言う。

 同じ階に住むシャフィー・ハビビさん(24)は逃げ遅れて、部屋で火が収まるのを待つしかなかった。

「警察から何も聞いていないので、何が起きたか、今でも分からない。怖いけど、ここに住むしかない」

 幸い死者は出なかったが、病院で手当てを受けたのは、生後数カ月の赤ちゃんも含め、9人にのぼったという。

 ドイツでは、難民が仮住まいする建物を狙った放火が相次いでいる。連邦刑事局によると、昨年だけで82件が確認されている。投石なども含めた難民住居への攻撃は、約900件に達したという。多くの事件に、右翼思想を持つ者が絡んでいるとみられている。

 アルテンブルクの現場付近で地元の人たちに聞くと、放火の被害者たちに同情を示す。しかし、難民そのものへの感情は複雑なようだ。ある中年女性は、「わたしは失業中で、冷蔵庫が故障しても買い替えることができない。でも、あの人たちはすべてタダでもらえるんでしょう」と言った。

 昨年春から夏にかけて、シリアなどから戦禍を逃れて欧州に渡る難民が急増した。ドイツのメルケル首相は8月から9月にかけて、人道的な立場から難民問題に取り組む姿勢を強調した。国内に歓迎ムードが広がり、ボランティアによる支援の輪も生まれた。ドイツは欧州のなかでも際立って受け入れが進み、2015年中の入国は約110万人に達したという。

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