彼らは連邦政府により、ドイツ全土に振り分けられた。今まで外国人や移民になじみのなかった地域も、難民に直面することになった。その流れは16年も続くとみられる。

 難民の急増は、実は足元の景気にはプラスになる。そんな見方も、欧州の経済専門家の間に広がっている。仏シンクタンク「テラノバ」のエコノミスト、ロマン・ペレズ氏は言う。

「多くの人が投資を必要とし、消費を必要とする。すでに多くの難民が到着しているドイツでは、そのインパクトは大きい」

 難民のための施設を建設する需要が生まれ、難民に給付したお金が消費に回る。ドイツは財政出動による景気刺激に消極的だったが、皮肉にも難民のおかげで一歩前進することになった。

 ただ問題は、長い目でみて、政治的に受け入れられるかどうかだ。

「社会的統合が成し遂げられない限り、これは一種の時限爆弾になるだろう」

 そう語るのは、政権与党、キリスト教民主同盟(CDU)の国会議員、マーティン・パツェルト氏だ。統合のためには市民がボランティアで難民支援に関わることに加え、簡単なものでいいから難民がすぐに仕事ができるようにすべきだと訴える。自分でも難民2人を自宅に受け入れ、実践している。

 しかし、もしも統合に失敗すればどうなるか。

「社会は分断され、難民への攻撃が増え、右翼の政治家たちが支持される。そしてパリのテロ事件をみれば、社会的統合がうまくいかないとどういう結果になるか、最悪のケースが示されている」

AERA  2016年1月18日号より抜粋