母は友達も作らず、人生のすべてを娘にささげようとした。それは、娘から見れば“支配”にも感じられた。

 女性が10代になると、母は祖母の介護や親戚の愚痴を毎日こぼした。息苦しさから逃れたくて、高校生になると髪を金髪にし、帰宅も遅くなった。母は最初怒ったが、支配できないことがわかると、今度はみるみる暗くなっていった。口論になると、母は決まってこう言った。

「お母さんには、あなたしか頼れる人がいないのよ」

 愛情を注がれる一方で、プレッシャーを感じることもある一人っ子。しかし明治大学教授の諸富祥彦さん(心理学)は、育て方次第で、一人っ子であることはむしろプラスだという。

「子どもに必要なのは、親に愛されている実感を持つこと。愛情を誰かに奪われる心配のない一人っ子は、自己肯定感を持ちやすい。そのためには、親が愛を押し付けず、無条件で愛してあげることが大事です」

 金融関係で働く女性(28)は、ラジオの相談番組に寄せられた悩みを聴いて、はっとした。相談は3人姉妹の次女からで、「姉と妹がすごく美人で、自分は普通の容姿であることにコンプレックスを持っている。そのせいで男性とうまく話せない」というものだった。女性は言う。

「私は家庭内で人と比べて、コンプレックスを持ったことがない。一人っ子だから、劣等感なく、のびのび成長できたことに感謝しました」

AERA  2015年8月17日号より抜粋