「現代のコミックファンは、もはや原作を読むだけではなく、あらゆる手段で作品を楽しもうとする。今回の展示は、その要請に応えた結果です」

 平面だけに限らず、原作の世界にまるごと浸りたい。そのとき、3D世界にそびえ立つ構造物がファンを包みこむ。その興奮は、展覧会場を出た瞬間からSNS上に広がっていくだろう。「自分はここに来たんだ」という足跡が、ネットワーク上に次々に刻まれていく。庄子さんはこうも言う。

「長らくマンガは個人的な体験メディアとして発展してきた。感想を言いあうとしても、極めて限定的な人間関係のなかでしかできなかった」

 1960年代になって初めて全国のニュータウンに現れた「子ども部屋」をイメージしてほしい。これらの急増で、子どもたちは自室に大量のマンガを置けるようになる。本棚や床に積まれた単行本は、子ども自身の「内面」でもあった。それはあくまでも、個人的な空間。

 しかし、情報技術が著しく進むと、内面は瞬間的にネットワーク上に拡散できるようになった。写真も動画も、セットで流通し始めたのだ。

 かくして、ファンが求めたのは原作をベースにした「ハレの場」。庄子さんの言葉を借りれば「イベント化」だ。

「メディアミックスの流れですよね。これまでマンガ→アニメ化→ゲームやグッズ販売だったのが、マンガ→イベントという流れが生まれた」(庄子さん)

AERA 2015年5月25日号より抜粋