習近平、胡錦濤、温家宝、江沢民…。中国共産党のリーダーはここ20年、ほとんど理系だった。背後には「革命」や「文革」など、理由があった。

 子どものころ、呪文のように、親や親戚に言われ続けた。

「学文科没用(文系なんて、役に立たないよ)」

 中国では、1990年代以降に生まれた現代っ子のことを「90後(ジョウ・リン・ホウ)」と呼ぶ。その「90後」のど真ん中に生まれ、日本留学を経て、日本企業で働く中国人の男性は、文学好きで根っからの文系。なにかと理系が大事にされる中国社会で、いつも疎外感を感じて育った。

 中国といえば「文化の国」。文系が強いように思えるが、それは49年の革命(中華人民共和国の成立)前の話だ。13億人の国民を引っ張っていく指導者たちが、ことごとく理系出身であることからも、理系天下ぶりがうかがえる。

 現在の国家主席の習近平(シーチンピン)氏は、名門・清華大学の化学工程学部卒。その習近平氏が反腐敗運動によって失脚させた政敵、周永康(チョウヨンカン)・元政治局常務委員も、若き日は北京石油学院で地質学を学び、石油・石炭業界を牛耳った。

 前の国家主席の胡錦濤(フーチンタオ)氏は、清華大学水利エンジニア学部卒。その前任の江沢民(チアンツォーミン)氏も、上海交通大学電気機械学部を出ており、3代続けて理系の最高指導者となっている。

 ここまで指導者に理系が集中する点を、東洋学園大学教授の朱建栄さんは「もちろん偶然ではありません」と指摘する。

「中国の理系重視は二つの段階に分かれます。革命後の国家建設の時期は江沢民や李鵬の世代で、ソ連などに派遣されて学びました。文化大革命のあとは、改革開放の時代に道路や工場などインフラをどんどん建設するためでした」

 革命後に「自立更生」を掲げた中国は、航空技術や核技術なども自前で開発しようとしたため、なおさら理系の人材が求められた。改革開放後は、油田の開発、製鉄所の建設、水道の普及、都市開発などのプロジェクトが次々に始まった。各分野の専門知識を持つ人材が求められ、日本や欧米で技術を学んだ若者が大量に必要とされた。

 もっとも、共産党の初期の指導者の毛沢東や周恩来、鄧小平は、すべて文系だった。ただ、その後、法律や哲学、ジャーナリズムを学んだ学生は、共産党の一党独裁に不満を持ちやすいという理由もあって、文系は警戒された。歴史的に「科挙」による文系重視で硬直化した教育への反省もあったようだ。

AERA 2015年4月13日号より抜粋