子どもが狙われる事件が頻発し、登下校時の見守りは定着した。だが、その時間帯が過ぎてしまうと、「人の目」」は一気に少なくなる (c)朝日新聞社 @@写禁
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子どもが狙われる事件が頻発し、登下校時の見守りは定着した。だが、その時間帯が過ぎてしまうと、「人の目」」は一気に少なくなる (c)朝日新聞社 @@写禁

 子どもが通学路や自宅周辺で狙われる事件が後を絶たない。しかも、加害者の実に半数近くが「顔見知り」だ。私たちはどうやって子どもたちの身を守ればいいのだろうか。

 警察庁が、2013年1月から14年11月までの23カ月間に検挙した13歳未満の子どもの連れ去り(略取誘拐)事案159件について、「被疑者と被害者」の関係を調べたところ、47.2%が「面識あり」。その内訳は、親族32.1%、知人・友人6.3%、その他8.8%だった。

 日本では長く子どもたちに「知らない人にはついていかないこと」と教えてきたが、東京学芸大学教授の渡邉正樹さん(安全教育学)はこう指摘する。

「現実に起きている犯罪を見ると、知らない人だけが『危険』というわけではありません」

 例えば、「中年でサングラスをかけている男性」などと、不審者の外見を決めつけるのは、子どもの油断を誘うという。1月中旬に群馬県吉岡町で起きた、小4女児(10)連れ去り未遂事件では、近くの交番に勤務する巡査(24)が犯人だった。本来は、子どもを危険から守ってくれるはずの人物なのに。

「犯罪者にはさまざまな人がいる。年齢には幅があるし、男性だけではなく女性が加害者になるケースもあります」(渡邉さん)

 人目につきづらく逃げやすい。子どもを狙う犯罪者は、こんな条件で犯行場所を絞り込むという。犯罪から子どもを守るために最も有効なのは「人の目」だ。だが、地域の絆の希薄化や防犯ボランティア活動の停滞などで、住宅街には死角が広がる。

 近所の危険から子どもを守るには、どうすればいいのか。渡邉さんは、「人」ではなく、路上で突然声をかける、理由もないのに近づいてくるといった「行為」に気をつけるよう教えるのが大切だと説く。

「実践的な学び」が大切だと強調するのは、子ども向け防犯教室を開くNPO体験型安全教育支援機構(東京)の代表理事・清永奈穂さんだ。

「子どもは、頭では『怪しい人にはついていかない』とわかっています。しかし、例えばナイフを突きつけられたりしたら、恐怖のあまり体が固まってしまうことは少なくありません」

 清永さんたちは10年、車に乗せられそうになるなど、危険な経験をした全国約1600人の小・中学生を対象に、「危機遭遇体験調査」を行った。怖い目にあった時、走って逃げた子は56.2%いたが、大きな声で叫べた子は9.8%、キッパリ断れた子は8.9%。防犯ブザーを鳴らせた子はわずか2.7%しかいなかった。

 同NPOは日本各地で、犯罪者の心理分析に基づいた「体験型防犯教室」を開催している。教室では、「走って逃げるのは最低でも20メートル。そうすれば、追いかけるのを諦めるから」「手をつかまれたら、相手にかみついてもいいよ」などと、具体的に伝え、不審者の「かわし方」を体で覚えさせる。

「それがたとえ疑似的なものでも、実際に『体験』することで、五感がフル回転し、危険の回避能力を身につけられます」(清永さん)

AERA 2015年4月6日号より抜粋