独立行政法人「森林総合研究所」(茨城県つくば市)のきのこ・微生物研究領域長の根田(ねだ)仁さんは、こう説明する。

「山林の土壌はセシウムを吸着・保持する性質があるため、森林内に分布する放射性セシウムのうち森林外へ流出する量はわずかです。自然の減衰をのぞけば森林内にとどまっている。その上、キノコはセシウムを吸収しやすい性質をもっているためと考えられます」

 そして、そのキノコを食べたシカやクマ、イノシシなどが汚染される……。基準値超えの品目は、出荷も販売もされないことになっている。しかし、いくら「安全」と言われても「納得できない」という人は少なくない。特に、行政が発信する「安全・安心」への不信感は根強い。

 原発事故直後から、自社で扱う食べ物に含まれる放射能を測定している、宅配食品大手のオイシックス(東京)の品質管理部の冨士聡子部長は言う。

「漠然とした不安を持ったお客さまは今でも少なくありません」

 同社はベビー&キッズ商品の検出限界を1キロ当たり5~10ベクレルと低く設定し、放射性物質が全く検出されなかった食べ物だけを宅配している。

 自治体による検査体制に問題があると指摘する研究者がいる。原発事故以後、食べ物などに含まれる放射能の測定を継続している東京大学大学院助教の小豆川勝見(しょうずがわかつみ)さん(環境分析化学)だ。

 小豆川さんによれば、北関東の「道の駅」や自家野菜直売所などで販売されているキノコ類の放射性セシウムの濃度を検査すると、基準値を超えることは珍しくないという。この点について栃木県は、

「月に一度、市町村ごとに食べ物の放射能検査を実施している。スーパーも道の駅も、体制は一緒です」(林業振興課)

 と、検査体制に不備はないと説明する。ではなぜ、基準値超えが検出されるのか。小豆川さんは、検査の「頻度」と「意識」の甘さを指摘する。

「福島以外の自治体は食べ物の放射能検査の測定回数が少なく、基準値超えの食品が出るかもしれないという危機意識も低い」

●2万ベクレル超えも

 土壌でも、これと似たような構図がある。小豆川さんによると、例えば、環境省のガイドラインにのっとって市内の空間線量率は基準値以下であることを確認したと、市が公式に発表していたとしても、公園の端っこの吹きだまりなどでは、ゆうに基準値を超える場所があるという。実際、昨年8月、東京23区内のマンションの排水溝にたまった汚泥などを測定したところ、2万ベクレルを超える場所があった。指定廃棄物となる国の基準(1キロ当たり8千ベクレル)をはるかに超える数値だ。だが、関係する役所に通達しても、一切対応はなかったという。

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