ホテルオークラ東京の本館ロビーに立つトーマス・マイヤー氏。「この素晴らしい空間がなくなってしまうなんて信じられない。私たちは少なくとも、取り壊しの阻止を試みることはできます」(撮影/伊藤徹也)
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ホテルオークラ東京の本館ロビーに立つトーマス・マイヤー氏。「この素晴らしい空間がなくなってしまうなんて信じられない。私たちは少なくとも、取り壊しの阻止を試みることはできます」(撮影/伊藤徹也)

 ボッテガ・ヴェネタのトーマス・マイヤー氏が、あるプロジェクトを始めた。ホテルオークラ東京本館の建て替えを止められないか、というのだ。

 トーマス・マイヤー氏は、ファッション界を代表するクリエイティブディレクター。1980年代に初めて日本を訪れて以来30年以上、「ホテルオークラ東京」を利用してきた。特に本館の建築物としての美しさが、彼を惹きつけている。

「車寄せには低い屋根がせり出していて、玄関を入りロビーに進むと高い天井から照明が垂れ込め、急に明るく視界が広がる。そこには極端に低い家具が配置されていて、ここにしかない世界が目の前に現れる。これほど特別な空間は世界を探してもそうはない」

 そのオークラ本館が取り壊される。今年8月で閉館し、38階建てと13階建ての2棟に建て替えられるという。2014年5月に計画が発表されると、国内からの惜しむ声以上に、海外のファッション、アート界から、メディアやSNSを通じて「セーブ・オークラ(オークラを救え)」の声があがった

 オークラ本館は、日本モダニズム建築の代表格。マイヤー氏はオークラ本館に、建築物としての歴史的な価値に加えて「日本人の戦後の歴史と文化」を見ているという。オークラ本館の建て替え計画を新聞で知り、悲痛な気持ちになったというマイヤー氏。

「自分の思いを日本を訪れたことのあるクリエーターや建築家とシェアし、多くの人が同じ気持ちだとわかった。自分たちにも何かできるはずだと思いました」

 そこで、日本のモダニズム建築への関心を高め、未来に継承していくためのプロジェクトを始めた。金沢21世紀美術館でのシンポジウム後援や、SNSを使ったキャンペーン「#MyMomentAtOkura」だ。

 静かに始まったプロジェクトはじわじわと浸透。「#MyMomentAtOkura」とハッシュタグを付けてツイッターやインスタグラムにオークラ本館の写真を投稿すれば、誰でも参加できる。

AERA  2015年2月2日号より抜粋