長年紛争状態にあり国境が閉ざされたガザで、障害物を乗り越えて移動するスポーツ「パルクール」の人気が高まっている。若者たちは、過激な動きを通して、限界への挑戦と自由を求めている。

 瓦礫の中をパレスチナ人のティーンエージャーたちが駆け抜けていく。障害物に手を軽くあてただけで、すり抜けるように飛び跳ねていく。

 ここは、パレスチナのガザ地区南部のハンユニス。2014年のイスラエルとイスラム組織ハマスの50日戦争で徹底的に破壊された地区である。その戦火の傷痕の中で、若者たちが演じているのは、パルクールと呼ばれる曲芸的なスポーツだ。

 華麗だ。瓦礫の中のランニングや、俗にヴォルトと呼ばれる、手をついて障害物を飛び越える運動だけではない。後方宙返り、側方宙返り、小高い建物の残骸から残骸へのジャンプを混ぜ合わせていく。その中で、贅肉のまったくない彼らの身体が風のように流れていくのだ。

 極めて危険でもある。彼らがパルクールを行う場所は、しばしば10メートル近い高さのビルの屋上であったり残骸であったりする。その端で倒立運動も行う。ジャンプ後の着地点では、尖ったコンクリートの破片やコイル状の鉄心の切れ端がひしめいている。

 ガザでパルクールが人気を呼んだ理由はいろいろある。少し前までは、ガザでティーンエージャーに人気があるスポーツといえば、サッカーぐらいしかなかった。他に空手や陸上競技などもあったとはいえ、長年の紛争状態が続く中、参加できるスポーツは、非常に限られていたのである。そこに、パルクールが紹介され、多くの若者たちを魅了した。

 パルクールは、環境的にもガザに適しているかもしれない。近年、スポーツとして都会の中で発展してきたが、実は、大半の国ではそのパフォーマンス空間はかなり制限されている。ビルの屋上を使ったりビルからビルへジャンプしたりするパフォーマンスは、法的な問題などもあって簡単には行えない。それがガザでは、紛争が作り出した環境とはいえ、はるかに自由にパフォーマンスを行える。その中で身体の限界への挑戦ができるのである。

 だが、もう一つ大きな理由がある。今回、ハンユニスで出会ったティーンたちの言葉を借りれば、「自由感」だ。パルクールの大きなコンセプトは、境界と障害物を乗り越えて自由に突き進むこと。多くのパレスチナ人、とりわけ大半の若者がガザから自由に出たり戻ったりできない状況の中で、それは、自由を求め続ける彼らの存在自体のメタフォール(隠喩)になっているのである。

AERA  2015年2月2日号より抜粋