次々と要求を突き付け、日本政府を困惑させるイスラム国。その背景にあるものを、専門家はこう見る。

 後藤健二さん・湯川遥菜さんら2人の人質動画の公開と2億ドルの要求。それに続き、ヨルダンに収監されているテロ犯サジダ・リシャウィ死刑囚の釈放要求。そして29日には、「(現地時間の29日の日没までに)トルコ国境までリシャウィ死刑囚をつれてこい。そうしなければパイロット、後藤の順に死ぬ」という情報が、日本に飛び込んできた。

 しかし、パイロットの無事が確認されていないとの理由で、期限が過ぎてもヨルダン政府は動かなかった。そして29日深夜、後藤さんの妻から悲痛な英語の音声によるメッセージが欧米のメディアを通して流れた。

「私は、これが私の夫にとって最後のチャンスなのではないかと恐れています。(中略)ヨルダン政府と日本政府に、2人の運命は彼らの手の中にあるということをどうかご理解いただきたいと思います」

 妻は日本政府関連機関で働く女性とされ、声明では本名で名乗った。12歳までヨルダンの首都アンマンで暮らした経験があり、英語も堪能。表に出ることを避けてきたが、イスラム国から「このメッセージを明らかにしなければ後藤が次(の犠牲者)になる」と脅されたという。

 それにしても、要求の内容や方法がころころ変わる。そのたびに日本政府もメディアも世論も一喜一憂し、振り回されている。イスラム国はいったい何を狙っているのか。

 日本エネルギー経済研究所理事の保坂修司さんは「場当たり的で、深く考えたプランがあるようには見えない」と指摘する。

 死刑囚の釈放要求もどこまで真剣か疑問が残る。同死刑囚は「イラクのアルカイダ」を率いたザルカウィ容疑者の親族とも言われるが、英雄視されていたわけでもなく、過去にイスラム国が強く釈放を求めたこともない。身代金を諦め、思いつきで名前を出したようにすら思える。

 保坂さんは後藤さんが読み上げるメッセージから、欧米などからジハードに駆けつけた外国人ジハーディスト(聖戦主義者)ら過激なグループが主導している事件だと見ている。

「英語のメッセージは英語ネイティブの人たちが書いたように見える。黒覆面の『ジハーディ・ジョン』もそうだが、彼らは基本的にイスラム国に来て暴れたい人、戦いたい人たち。イスラム社会で教育を受けたわけではなく、現地の穏健な宗教指導者にも敬意を払わず、非常に凶暴性が強い。今回も日本やヨルダンを翻弄していることを楽しんでいるように見えます」

AERA 2015年2月9日号より抜粋