かつては、女性にとってある種の「ゴール」だった「駐在員の妻」。お手伝いさん付きの外国生活に加え、帰国した後も、優雅にサロンを主宰する、セレブな主婦。だがそれも、今は昔。変化の波にさらされているようで。

 3年前に帰国した渋谷区在住の自営業の女性(46)によれば、「大手企業を辞めず休職する駐妻も増えました。夫の海外勤務の期間を利用して妊娠し、産休を取ってついていった証券会社勤務の保育園ママ友もいました」

 周囲には、夫の海外勤務に合わせて夫と同じ勤務地に転勤させてもらった妻も何人かいた。

 最近の、駐妻をエンジョイしつつ最大限に活用するパターンは、休職して夫の赴任先についていき、本気で外国語をブラッシュアップ、帰国後に復職して人脈や語学力を生かして働く、だろう。

 ただし、これはハイスペックな経歴の妻たちの話。実際はまだ、休職できなかったり出産ですでに仕事を辞めたりしている妻のほうが多い。

 女性の働き方や海外キャリアに詳しい、CTS東京の代表・滝川奈穂さんはこう話す。

「たとえばバンコク駐在の場合、ある企業は運転手や引っ越し代、住居費など、1人の社員に年間3千万円かける。それを自覚して、旅行三昧したり日本人同士だけで過ごしたりするのではなく、滞在国の情勢を理解し、ビジネス目線も持って生活を。夫のサポートにも繋がり、自分の帰国後の働き方の幅が広がるはずです」

 滝川さんはこうも言う。

「男性よりコミュニケーション能力が高い女性が、海外で必要とされる場面は多い。駐妻には、夫の会社の人間関係にとどまらず現地の人脈も作ってほしい。仕事をしていなくても、それが役立つことはあるはずです」

 いまどきの駐妻って、大変。夫の海外駐在なんて期間限定なのだから、その間くらいのんびり暮らしたい気もしますけど。

 しかし一方で、いまだにこんなケースもある模様。米国とベルギーでの駐妻経験を持つ女性は、2度目の駐在時に夫の上司だった人の妻で、手芸サロンを主宰する女性が帰国後に開く食事会だけは断れず、駐妻仲間数人と共に、嫌々ながら参加している。

「『次回はいつ?』などと振ってくるだけで、お店の予約は私たちにお任せ。典型的な“では神様”です。口癖が『海外ではねー』な駐妻をこう呼ぶんです」

 絶滅危惧種な神様ですが、やっぱりちょっとうらやましいですか?

AERA 2015年1月19日号より抜粋