就職してから一念発起し、医学部を目指す社会人が増えている。決して易しい道ではない一方で、大学側はその熱意や経験を歓迎しているようだ。

 社会人が医学部を目指すにはどんな道があるのか。受験には、大きく二つの方法がある。大学の2年次または3年次に編入する学士編入学と、高校生・浪人生たちと同じ土俵で勝負する一般入試だ。

 学士編入学は、学士号を持っていれば、出身学部などにかかわらず受験資格がある。一部の大学ではより対象者を広げ、大学在学中でも取得単位数によって受験資格を付す一般編入学のシステムもある。

 再受験を志す側からすれば、大学の在籍期間は1年でも短縮したい。編入できるに越したことはないと思えるが、鈴木さんによれば、一般入試を選ぶ人のほうが圧倒的に多いのが現状だ。

 学士編入は実施している大学が限られるうえ、若干名しか取らないことがほとんどで、非常に狭き門。全国の大学を合わせても250人程度の枠しかない。一般入試での全国の医学部の定員は約9千人と、椅子の数だけで見れば断然多い。

 学士編入の先駆者とも言えるのが、東海大学だ。1988年の制度開始からすでに500人以上が編入し、医師として巣立っている。教育計画部事務室長の原義徳さんが説明する。

「いわゆる受験エリートだけが医師に適しているわけではありません。多様な経験を持った人が医療業界にいるのは大切なこと。編入生は学年のなかでもリーダー的な存在になってくれる。年代も背景も違うさまざまな学生の交流があることは、学びの場としてもよい環境です」

 予備校でも大学でも、社会人再受験組は、熱意や学びに対する姿勢がまったく違う、というのが共通の見方だ。授業で最前列に座っているのはたいてい編入生。そんな姿を見て、クラスメートたちも刺激を受ける。

 東海大学の編入試験は、書類審査、英語と適性試験、面接で合否が決まる。他大学の多くが理系科目の試験を設けているが、東海大学は「医学は総合的な学問であり、理系だけの学問ではない」という考えから、文系出身者にも広く門戸を開く。
 
 14年度志願者の平均年齢は29.6歳。なかには60代、70代の志願者もいたという。

AERA 2014年10月13日号より抜粋