これまで科学者が手にしていた直接証拠は、ビッグバンの名残までだった。1960年代に米国の電波天文学者2人が発見した宇宙背景放射だ。ビッグバンの爆発から数十万年後、温度が下がり、「雲」が透明になったところで出てきた光を地上でとらえたのである。光は電磁波なので宇宙の膨張につれて波長が伸び、エネルギーの低い電波になっていた。

 これに対して、ビッグバン以前はずっとベールに包まれたままだった。それが、90年ごろから様子が変わってくる。米国のCOBE衛星などによる宇宙背景放射の精密測定は、インフレーション理論の予測に合う結果を出した。超新星という天体の観測で宇宙膨張が加速していることがわかり、暗黒エネルギーの存在が有力視されるようになったことも、インフレーションに欠かせない真空エネルギーの現実味を高めている。

 ただ、それらはどれも状況証拠の域を出ていなかった。

 ところが、今回の発表が正しければ、それはインフレーションの直接証拠になる。

 BICEP2望遠鏡が見つけたのは「原始重力波」の痕跡と言われるものだ。重力波とは、時空間のひずみが広がっていくことを言う。引きがねとなるのは、天体の合体や超新星爆発など宇宙空間の激しい現象だ。

 BICEPは、重力波そのものを見てはいない。観測したのは、あくまで宇宙背景放射だ。これは光と同様、電磁波なので波の揺れる方向が偏光成分として見てとれる。その偏光の様子を方角ごとに調べたところ、重力波があるからこそできる渦巻き模様が浮かびあがったという。これが、宇宙のはじまりに放たれた重力波の痕跡であり、インフレーションがあったことを裏づけているという。

AERA  2014年8月18日号より抜粋