某芸能人夫婦のように、夫婦間では女性から離婚を切り出すケースが少なくない。時には、女性はこんな強硬手段に出ることもあるようだ。

 早朝の住宅街。ジーンズ姿にキャップをかぶった若者が携帯電話をかけている。もう一人の若者はトラックの運転席からあたりを見回している。

「よし、決行だ」

 トラックを少し走らせて目的の住所に着くと、無地の段ボール箱を手にインターホンを押す。ドアを開けた女性と目で挨拶を交わし、無言のまま中に入った。

 若者たちは女性に指示を仰ぐと、次々と食器などを梱包し、トラックに積み入れ始めた。女性も座り込み、黙々と梱包を手伝う。3、4時間後、最後の段ボール箱を若者に手渡した女性の頬は緩んでいた。トラックを見送り、手荷物を持つと、住み慣れた部屋を一瞥してドアを閉めた。今晩、帰宅した夫はガランとした部屋で唖然として立ち尽くすことだろう。

 実はこの若者たちは引っ越し作業員で、女性は夫がゴルフに行っている隙を狙って引っ越しを計画した依頼主。離婚を目的とした別居のための引っ越しだ。

 こうした依頼が、アイデア引越センター(神奈川県)には年10件ほどある。3、4年前に始めた「ワケあり引越プラン」で、ストーカー被害や近隣トラブルなどを含む利用件数のうち、2~3割が別居のため。利用者のほとんどが女性で、平日、夫が出勤した直後から作業を始めることが多い。

 夫が近所に聞き回っても足取りがつかめないように、トラックと段ボール箱は社名が入っていないもので、作業員も私服が基本。事前に梱包ができず、夫の行動によっては突然中止になる可能性もある。夫にバレたら計画が水の泡になるからだ。

AERA 2014年7月14日号より抜粋