ふたり女性の成長を描いた映画「アナと雪の女王」が大ヒット中だ。おとぎ話をグッと現実に引き寄せて大人をも魅了した主題歌は、こうして生まれた。

ディズニー側からの希望は、「歌を聴いた人が、主人公と自分自身を重ね合わせることができるような訳詞に」だった。

「私自身、映画の中でエルサが自分を認めていくプロセスはおとぎ話の中だけの話ではなく現実の世界に通じると感じていました。『自分はこのままでいいんだ』と納得したところからその人自身の輝きが生まれてくるということを、この映画や歌を通じて伝えたかったんです」

 そう話すのは、映画「アナと雪の女王」の主題歌「レット・イット・ゴー~ありのままで~」の訳詞を担当した高橋知伽江(ちかえ)さん(57)だ。

「アナ雪」は、触れたものすべてを凍らせる力を持つ孤高の女王エルサと、彼女と彼女の王国を救おうとする妹アナの物語。ディズニーのお姫様映画といえば、主人公を救うのは「白馬の王子様のキス」が定番だが、この作品が描くのはより普遍的な「真実の愛」。極めて現代的なストーリーだ。

 ヒットを支えているのは、主題歌への共感。子どもだけではなく20代、30代の女性が繰り返し映画館に足を運んで「レリゴー」と口ずさみ、ゴールデンウイーク特別企画として「“みんなで歌おう♪”歌詞付き」上映が行われたほどだ。

 現在は水戸芸術館演劇部門の芸術監督も務める高橋さんは、劇団四季在団中に戯曲の翻訳や訳詞を始め、ディズニー作品にも10年以上携わるベテラン翻訳家。劇作家でもある。

 英語で「Let it go,let itgo」と歌うエルサの口の動きと「ありのままの」という訳がぴったり合う!と注目されているが、高橋さんによれば、口の動きに合わせた訳詞はこれまでもやってきたこと。

「このことが話題になるのは、大人の方も吹き替え版を見ているからでしょう。吹き替えといえば子ども向けと思われることを残念に思っていましたが、この映画で、大人の鑑賞に堪えうる日本の吹き替え技術の高さを知ってもらえたのでは」(高橋さん)

AERA 2014年5月19日号より抜粋