「当時担当していた『うたばん』で、僕の大好きな『さよなら』を歌ってほしいと、小田和正さんに頼みに行きました。答えはノー。それでも食い下がったら、小田さんから『新しい形の音楽番組を作るのなら』と」

 小田の頭にあったのは、お互いにリスペクト(尊敬)し、認め合うという趣旨で、一流のアーティストが一堂に会するライブ形式の音楽番組。出演依頼も自ら買って出て、一人一人に自筆の手紙を送った。しかし、アーティストたちからの返事は、すべて「辞退」。企画は進んでいる。出演者はいない。阿部は上から叱られる――そんな苦境を一変させたのは、小田のひと言だった。

「俺がひとりで歌う」

 リスペクトしているアーティストたちの名曲を、小田は一人で歌った。ファンの間で語り継がれる第1回の放送は、こうして誕生した。この番組は大きな感動を呼び、のちのカバー曲ブームの先駆けになった。

「あんなにたくさんの感動のお便りを、視聴者からいただいたことはなかった。ムリ超えのコツがあるとすれば、それは信じること。僕も小田さんの本気を見て、信じたからこそ超えられたのだと思います」(文中敬称略)

AERA 2014年1月13日号秋元康特別編集長号より抜粋