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自転車に乗ると退学、ロックは悪魔の音楽? サウジの現実

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アメリカ人外交官の夫とともに現在はバーレーン在住。感銘を受けた日本の映画は「誰も知らない」「おくりびと」。「日本の女性は芯が強いですね」(撮影/写真部・慎芝賢)

アメリカ人外交官の夫とともに現在はバーレーン在住。感銘を受けた日本の映画は「誰も知らない」「おくりびと」。「日本の女性は芯が強いですね」(撮影/写真部・慎芝賢)

「自転車がほしい」とねだる10歳の娘ワジダに母親は言い放つ。

「絶対に買わせないわ。退学になったらどうするの」

 ラジオからロックが流れると、母親はいらだち、声を荒らげる。

「消しなさい! それは悪魔の音楽よ」

 映画「少女は自転車にのって」の舞台は、サウジアラビア。緑色の自転車に憧れるワジダが、賞金目当てに学校のコーラン暗誦コンテストに参加し奮闘する姿を、ユーモアたっぷりに描く。

 なぜ女性が自転車に乗ってはダメなのか。ハイファ・アル=マンスール監督によると、「法や宗教ではなく、慣習的な理由です。『卵巣の位置が変わってしまう』と言う人もいます」。

 サウジアラビア初の女性映画監督だ。「幼い頃、自転車に憧れた」という自身の経験が、映画の原点になっている。

 出身は、首都リヤド近くの小さな町。顧問弁護士で詩人の父は、男女12人のきょうだいを分け隔てなく育てた。兄の自転車を見て「私もほしい」と言うと、快く聞き入れてくれた。

「ただ、父も周囲を気にして、外で自転車に乗ることは許さず、自宅の裏庭で乗っていました」

 エジプトで大学卒業後、帰国して石油会社に勤務。しかし、女性には重要な仕事や昇進の機会が与えられず、「透明人間になってしまったような喪失感」を味わう。そんな時、思い立ったのが、映画を撮ることだった。

「幼い頃、家でジャッキー・チェンの香港映画や『白雪姫』などのビデオをよく見ていました。私にとって、映画は世界へ通じる扉。映像で自分の声を伝えてみたいと考えたのです」

 芸術を商業的な場所で行うことを認めていないサウジには映画館が存在せず、撮影をすべて国内で行うのもこれが初めて。さらに監督が女性というのは、前代未聞だった。父親宛てに娘を批判する手紙が届いたり、新聞で非難されたりすることもしばしば。だが、監督はいたずらっぽい笑顔でさらりと言う。

「映画撮影は、外で自転車に乗るより簡単でした。やり方をちょっと工夫すればいいのです」

 とはいえ、脚本の構想から完成までには5年を要した。サウジでは映画の配給システムがなく、プロデューサーを探すのは絶望的。そのため、「ヨーロッパのあらゆる会社にEメールで出資を打診した」ところ、ドイツの1社が資金や撮影のサポートに名乗りを上げた。また、撮影現場は男性ばかり。厳格なイスラムの教えに基づく「屋外では男女が一緒に仕事をするべからず」という慣習を守るべく、撮影車のバンにモニターを持ち込み、車の中からトランシーバーで男性スタッフに遠隔指示を出した。

AERA 2013年12月9日号より抜粋


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