今、会社での「出世のセオリー」が変化しつつある。大人気となったドラマ「半沢直樹」では、「出向=左遷」の構図が描かれていた。だが、今はその状況も変わってきていると、人事制度に詳しいジャーナリストの溝上(みぞうえ)憲文は指摘する。20代、30代で出向させて、小さい規模の組織でマネジメントを経験させ、能力を試す。海外の子会社に出向させて修羅場を経験することで急成長を促す。こういう人事戦略を採る企業が増えているという。

「出向は左遷ではなく、その時に結果を残せるかどうかで、後の昇進が決まる、いわば『出世のリトマス試験紙』になっていると言えます」

 かつて大手企業では、人事部は出世コースと言われた。社内人脈を知り尽くしていたからだ。だがいま、その地位は「相対的に落ちている」(溝上さん)。代わって浮上しているのが経理や財務部門だという。

「経営者は株主や世間に数字で説明しなければならない。財務に詳しい人物を側近に置き、重用する傾向がある」

 外資系化粧品会社の部長を務める女性(52)は、かつて2階級アップの昇進を果たした。マーケティング担当の時だ。常に意識していたのは「数字」だった。 マーケティング分野では、イメージやアイデアが重視され、会議でも抽象的な議論が多くなることもある。だが彼女は、どういう戦略を採ると販売目標をどの程度達成でき、利益はいくら上げられるか、常に数字を明確にしていた。社長の参加する会議で、売り上げ数字などの質問に誰よりも先に即答した。

 昇進の結果、直属の部下は年上の元上司がほとんどになった。やりにくさを感じ2人の部下が辞め、情報を隠すなどの嫌がらせをされたこともあった。それでも、最高のパフォーマンスを出すために必要と思う人材を配置し、結果を出した。

「会社は仕事で結果を出すところ。できる人に任せるのは当然だと思います」

AERA 2013年10月7日号