就活生に便利就活ボールペン3種類の太さの黒に、赤ペンを加えたモデルも。内部には替芯を装着するスペースも用意(撮影/写真部・植田真紗美)
就活生に便利
就活ボールペン

3種類の太さの黒に、赤ペンを加えたモデルも。内部には替芯を装着するスペースも用意(撮影/写真部・植田真紗美)
セーラー万年筆&東京都市大学右から清野健治さん、徳増克巳さん、兼子毅講師とリサーチに参加した町田佳祐さん。「ターゲットは就活生でしたが、ビジネスマンからも好評で、広くユーザーを獲得できたのが良かったですね」(徳増さん) (撮影/家老芳美)
セーラー万年筆&東京都市大学
右から清野健治さん、徳増克巳さん、兼子毅講師とリサーチに参加した町田佳祐さん。「ターゲットは就活生でしたが、ビジネスマンからも好評で、広くユーザーを獲得できたのが良かったですね」(徳増さん) (撮影/家老芳美)

 近年、文房具メーカーは、企業向けの業務用文具だけでなく、個人のニーズに合わせた製品開発に重きを置き始めている。その背景には、リーマン・ショック以後の不景気による企業の経費削減がある。社員に文房具の支給を控える企業が増え、個人で文房具を購入する機会が増えたのだ。自分で買うなら、機能性やデザインにもこだわりたい。少々高くても多機能文房具が売れるようになった。企業の備品用に定番文房具を納品すれば安泰という時代から、新製品の開発にしのぎを削る時代に突入したのだ。

 社外の新鮮な発想を取り入れたヒット文房具が、セーラー万年筆が12年9月に発売した「就活ボールペン」だ。

 東京都市大学の兼子毅講師(52)が担当する科目「製品企画」を受講した学生たちが製品開発に携わった。講義の一環で、学生たちが考案した新製品のプレゼンを同社で行ったときのこと。雑談のなかで、就職活動中だった学生がポツリとつぶやいた。

「封筒や履歴書など、太さの異なる黒いペンを使い分けないといけない。これが1本にまとまっていたらいいのになあ」

 すかさず、兼子さんが「就活ボールペン」というネーミングを思いついた。「おもしろいね。やろう」と、居合わせた社長の中島義雄さん(71)や文具事業部企画部長の清野健治さん(56)らが即断即決。芯の太さの異なる3種類の黒ボールペンを1本にした就活ボールペンの商品化を決めた。

 実は、セーラー万年筆では太さの異なるボールペン芯を1本にした商品を10年ほど前にも発売したことがあったのだが、不発に終わっていた。

「当時は、社会人向けの事務用で、ネーミングも、3WAYを省略した『3W』といまいちだった。商品名から機能が伝わりにくかったのかもしれません」

 同部開発担当係長の徳増克巳さん(39)は当時の敗因をこう分析する。リベンジに燃える徳増さんたちは、プレゼンの翌週にサンプル品200本を用意。さっそく、プレゼンを行った学生チームが学内の学生に配って回り、どんなデザインがよいか、ペン芯の太さは何ミリの組み合わせが便利か、グリップの硬さはどうか、など細かくヒアリングを行った。「スーツにも似合うようにシックなデザインにしてほしい」といった意見を受けて、改良を加え、サンプルはさらに2回つくられた。

 セーラー万年筆にとって、ターゲット層に直接ヒアリングして商品開発するのは、初の試み。

「スーツに合うデザインなど、メーカーだけで考えても出てこない発想やニーズを集めることができた」(徳増さん)

 就活ボールペンは当初の販売計画の約3倍のペースで売り上げた。

AERA 2013年9月30日号