脱長時間労働のキーとなる管理職。管理職も部下も、生活を重視することで成長していく(撮影/今村拓馬)
脱長時間労働のキーとなる管理職。管理職も部下も、生活を重視することで成長していく(撮影/今村拓馬)

 今、多くの企業でワークライフバランス(仕事と生活の調和=WLB)の環境を整備しようとする取り組みが広がっている。その背景を、WLB施策に詳しい法政大学キャリアデザイン学部の武石恵美子教授はこう話す。

「日本の企業は画一的な働き方で成長してきたが、国際的競争に勝つためには、企業内でダイバーシティー、つまり多様性を生かすことが不可欠となった。そのための能力を発揮する条件整備という点で、ワークライフバランスは企業の経営戦略の一環として必要になってきた」

 目立つのが、東日本大震災を機に、節電対策で取り入れたサマータイムを「定時」に変える企業だ。震災をきっかけに「始業・終業の1時間前倒し」を始めたユニ・チャームは、

「一日の生産性が大きくUPしました」(企画本部)

 例えば、午前中に会議の準備→会議→会議フォローアップまで完結し、午後にはもう実行に移せるようになったという。今年3月期の同社の決算は売上高11期、営業利益6期連続での増収増益となった。

 そもそもWLBという概念は、1990年代の不況下にあった米国で広まった。今や企業の成長にはWLBの推進は不可欠とされながら、日本では後回しにされ、なかなか根付かない理由について、先の武石教授は、「働き方が、共有の問題になりにくい構造がある」と指摘する。

 育児や介護などの問題を抱える会社員も少なくないが、ライフよりワークが大切という考えが根強い日本社会では、WLBという意識を持ちにくいという。

「これからの企業に求められるのは、画一的になりがちな職場の勤務時間を見直すこと。個人の事情に合わせ、柔軟な働き方ができるようにすることが大切です」

 多様な就労ニーズに応える制度を設け長期的な競争力を培うことに成功したことで知られるのが、ソフトウエア大手のサイボウズだ。
 
97年創業の同社は、年間の離職率がピーク時の05年は28%にも上った。そこで08年、月残業時間が40時間程度のワークライフバランス型の「PS」と、残業なしか、もしくは短時間勤務のライフ重視型の「DS」のいずれかを選べる制度を導入。11年には、裁量労働制のワーク重視型の「PS2」もスタート。3コースは給与体系が異なり、約300人の社員は基本的に理由を問わず、どれかを選ぶことができる。さらに上司と相談すればいつでもコースを変えられ、今では離職率は4%になった。

「新卒者の定期採用で人員を確保できるようにもなりました。中途採用をあまりしなくてもよくなり、採用コストや教育コストが低下しています」(同社)

AERA  2013年9月16日号