遺伝性乳がん・卵巣がんの遺伝子検査を受けた人には、このような解析結果の報告書が届く。病的な遺伝子変異が検出された場合、リスクの可能性や結果の解釈を示す文章が付く(撮影/写真部・植田真紗美)
遺伝性乳がん・卵巣がんの遺伝子検査を受けた人には、このような解析結果の報告書が届く。病的な遺伝子変異が検出された場合、リスクの可能性や結果の解釈を示す文章が付く(撮影/写真部・植田真紗美)

 乳がんと卵巣がんのリスクを知る遺伝子検査が注目されている。米女優アンジェリーナ・ジョリーもこの検査を受けて、リスク予測をもとに、予防としての乳房切除手術に踏み切った。

 アンジーの告白が日本で衝撃をもって受け止められたのは、「予防的切除術」という考え方だ。リスクが確認される臓器を、がんになる前に切除してリスクを下げる。国内では乳房よりも卵巣の手術の方が先行して進められている。がん研有明病院や聖路加国際病院や慶應義塾大学病院でも実施例がある。

 卵巣の方が先行した理由を、慶應大医学部婦人科の青木大輔教授はこう解説した。

「HBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)の方にリスクが高い卵巣がんは、おなかの奥の方に発症し、経膣の超音波検査や腫瘍マーカーなどの検診では、なかなか早期には見つかりにくい。そこは、体表に近い側にあって検診で見つけやすい乳がんとは大きく違う。また乳がんは、切除でがんの発生リスクは減らせるが、死亡が減るかどうかはまだはっきりしていないのに対し、卵巣がんは最近、予防的切除で死亡を減らせることも科学的にわかってきました」

 アメリカのNCCN(全米総合がんセンターネットワーク)のガイドラインには、乳がんや卵巣がんと関係が深いとされるBRCA遺伝子に変異がある人について、「理想的には35~40歳の間に、出産の完了に伴って、あるいは家系内の最も早い卵巣がんの発症年齢に基づいて、卵巣卵管切除術を受けることを『推奨する』」と書かれている。卵巣がんの予防のほか、もう一つのメリットとして乳がんのリスクを下げられることも挙げられている。

 デメリットもある。閉経前の人が切除すると、更年期障害のような症状に見舞われる。手術を受けた年齢によっては、短期のホルモン補充療法を考えるが、その際に必須の「卵胞ホルモン」を長く補充し続けると、今度は子宮体がんのリスクを高めてしまう。そこで子宮体がんの抑制効果がある、「黄体ホルモン」も一緒に補充することになるのだが、黄体ホルモンは乳がんのリスクにもつながり、あまり長くは続けられない。黄体ホルモンを補充しなくてもすむよう、卵巣の予防切除の際に、子宮も取ってしまう選択肢もあるが、女性としての喪失感の問題が残る。いずれも際どい選択だ。

AERA  2013年7月15日号