実は今、固定電話の受け答えを苦手とする“電話恐怖症”ともいえる症状を抱える若者が増えている。

 小さいころから携帯電話に慣れ親しんでいる「ケータイネイティブ」にとって、未知の相手からかかってくる固定電話の取り次ぎは、想像以上にハードルの高い仕事だ。1年前に、あるメーカーに入社した24歳の男性は、就職するまで固定電話に出た経験がほとんどなかった。

「友達とは全員、ケータイかメールでやりとりしていましたし、就職活動のときでも、最終面接の合否の連絡以外、すべてメール。それが入社したら、『新人の仕事はまず電話を取ること』と言い渡されて…。顔の見えない、知らない相手と話すのが苦痛でした」

 と言う。まだ職場の人間の顔と名前が一致していないころ、社内の他部署から、「○○部のイトウですけど、サトウさんいます?」という電話を受けた。サトウさんって、どの人だったっけ。ああ、でも早く取り次がなきゃ…。頭が真っ白になり、とっさに受話器に手を当て、こう叫んでしまった。

「あの、イトウにサトウさんから電話です!」

 ややこしいことに、自分の部署にもイトウはいた。しかも部長。取り次ぎ相手を間違えたうえに、偉い人を呼び捨てにしてしまった。

「社外からの電話の場合、上司であっても『弊社のイトウが』と呼び捨てにするのだ、と新人研修で教わっていたので、それに引っ張られてしまいました」

 電話を保留にするのも忘れていたため、そのマヌケなやりとりは相手のイトウさんにも筒抜け。上司は笑って許してくれたが、「社外からの電話だったら、信用にかかわるぞ」と言われてから、電話に出るのが怖くなった。勇気を振り絞ってなんとか電話に出ても、話し終わるまでずっとドキドキして、受話器を置いた瞬間、汗が出る。どもったり、言葉をかんだりすることも多くなった。朝、「ああ、今日も電話がかかってくる…」と思うと憂鬱になる。そんなストレスが重なってか、3カ月で10キロやせたという。

AERA 2013年5月6日・13日号