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評価高い舞台「焼肉ドラゴン」は毒吐いた作品だった?

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鄭氏は1957年、兵庫県姫路市生まれ。「ザ・寺山」で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。「愛を乞うひと」など映画やドラマの脚本も数多く手がける(撮影/写真部・関口達朗)

鄭氏は1957年、兵庫県姫路市生まれ。「ザ・寺山」で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。「愛を乞うひと」など映画やドラマの脚本も数多く手がける(撮影/写真部・関口達朗)

「焼肉ドラゴン」で在日韓国・朝鮮人問題に真正面から取り組み、高い評価を得た鄭義信(チョン・ウィシン)の最新作が上演されている。日本と韓国。領土問題の原点も考えさせられる作品になっている。

 1924年、日本植民地時代のソウル郊外の町。放浪芸集団、男寺党(ナムサダン)の男たちが賑やかに集い、サムルノリ(伝統楽器を使った音楽)の音色が響く。そこへ駆け込んでくる丸メガネの日本人。

 草彅剛演じる日本人教師、柳原直輝と、チャ・スンウォン演じる男寺党リーダー、李淳雨(イ・スンウ)の友情を柱に描かれる舞台「ぼくに炎の戦車を」は、「焼肉ドラゴン」で2008年の演劇賞を総なめにした劇作家・演出家、鄭義信の最新作だ。

 企画が持ち上がったのは3年前。朝鮮半島各地を流浪した男寺党に以前から関心を持っていた鄭は、芸の継承者に実際に会って話を聞いたという。

「知識として知っていたことよりももっと虐げられていて、リアルで、身に迫った。その中でも彼らは芸を磨き、芸を売って生きている。心に響いたし、シンパシーを感じました」

 演劇のキャリアを劇団黒テントからスタートさせた鄭は、崔洋一と共同脚本を手がけた映画「月はどっちに出ている」(1993年)で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞、映画、テレビへと活躍の場を広げた。「月は~」を始め、作品には在日韓国・朝鮮人をモチーフにしたものが少なくない。「『冬ソナ』以来、(日本社会の)意識がごろっと変わった」と鄭は言う。

「それまではオブラートに包んでたんですけど、もういいかなって。僕の出自に近い部分をストレートに投げつけた」

 それが、70年頃の在日朝鮮人集落を舞台にした「焼肉ドラゴン」だった。

 韓流ブームにしろ、嫌韓感情にしろ、日本人の関心はいつも「在日」の自分たちを飛び越えて韓国へ向かう。「焼肉~」では、だから、毒を吐いた。

「……つもりなのに、みなさんが賞賛してくださって」

 と笑う。

 少し油断すると、時代はあっというまに奇妙にねじれてしまう。韓流ブーム一色だったはずが、韓流偏重だとテレビ局に抗議するデモが起きた。在日韓国・朝鮮人はいつのまにか、「特権」を受けていると「下から目線」の攻撃にさらされている。日韓関係は安定せず、今年8月には竹島問題が再燃。エンタメ界にも少なからず影響を及ぼした。

 だが、どんな時代でも、泣いて、笑って、懸命に生きようとする人々の営みを描く鄭の姿勢は揺るぎない。

AERA 2012年11月26日号


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