理不尽な上司、つまらないルーチンワーク、長引く仕事時間……。会社を辞めて自由に働きたい。そう思うカイシャインが多いのも無理はない。だが、そんな「社蓄」期を過ごす中に、将来の飛躍の芽が埋もれている。飛躍中の先達に、正しい「社蓄」期の過ごし方を聞いた。

 昨年出版され、話題を呼んだ『社畜のススメ』(新潮新書)。著者のコンサルティング会社社長、藤本篤志さんは執筆の意図をこう語る。

「起業や独立で華やかな成果を上げた人の多くは、まずは組織の歯車として言われた仕事をこなし、知識や経験を身につけ、ビジネスマンとしての『基礎』を作ってきた。そういう現実を再認識してもらうために、あえてこういう言葉を使いました」

 夢や理想を追う前に、まずは「社畜」に徹することがビジネスマンとしての飛躍につながる。

 女性ノマドワーカーとして様々なプロジェクトを手がけ、ドキュメンタリー番組「情熱大陸」でも取り上げられた安藤美冬さん。だが大学卒業後、集英社に就職した当初は「どうしようもないダメ社員だった」という。

 最初に配属された広告部は希望と違い、「やる気が出なかった」。コピーもちゃんと取れず、クライアントからの写真差し替え要求を忘れてしかられたことも。昼夜お構いなしにかかってくる社用の電話、印刷物の色調チェック、ページ割りの検討といった作業に追われるうち朝起きられなくなり、抑うつ状態と診断され半年休職した。

 その期間で、安藤さんは「社畜モード」に切り替わった。「復職したら、とにかく文句を言わずに一生懸命やろうと、覚悟を決めました」

 どうすれば気持ちよく「社畜」になれるか。心がけたのは、毎日の仕事の中で少しでも改良できる点を探し続けることだ。使いやすい文具選び、集中できるデスク環境づくりなど、身近なことから始めたという。

「小さくてもイノベーションを起こせる人は、どんな職場でも必ず重宝される。その積み重ねで信頼を得れば、大きな変革も起こせるんです」(安藤さん)

AERA 2012年11月5日号