4月号ジャーナリスト 斎藤貴男 Saito Takao「ジャーナリズム」の出番 |AERA dot. (アエラドット)

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ジャーナリスト 斎藤貴男 Saito Takao
「ジャーナリズム」の出番

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 今日もテレビで安倍晋三首相が誇らしげな笑みを湛えている。国会中継でも定時のニュースでも自信満々、「強い日本」を掲げては集団的自衛権の行使容認や武器輸出三原則の緩和、憲法解釈の大幅な変更等々を謳い上げ、「積極的平和主義」なるキャッチコピーまで生み出した。

 2月の国会で解釈改憲について問われ、「最高責任者は私だ」と言い放った時には愕然とさせられた。その少し前にも、「憲法は国家権力を縛るものだという考えは、王権が絶対権力を持っていた時代の主流的考えだ」と答弁し、近代国家の原理原則とされる立憲主義を時代遅れ呼ばわり。二つの発言を合わせれば、ほとんど独裁宣言ではなかったか。

 だが安倍首相の人気は相変わらずだ。NHKの世論調査によると、3月7日から10日にかけての世論調査で、彼の政権を支持するとした人の割合は51%。70%近かった1年前の勢いこそ薄らいだものの、一大ブームを巻き起こした小泉純一郎政権に勝るとも劣らないのである。

 ちょっと待ってもらいたい。安倍政権を支持するという人々は、彼らがこの国を、この国の社会をどうしようとしているのかを承知した上で、そう判断しているのだろうか。

 同じNHKの世論調査では、集団的自衛権の行使に意欲を示す安倍首相の考え方に「賛成」だと答えた人は17%に過ぎず、「反対」の33%、「どちらとも言えない」の43%をはるかに下回った。原子力委員会が安全性を確認した原発の運転再開を進める政府方針には「反対」37%、「どちらともいえない」38%で、「賛成」は21%。東日本大震災から3年を経て、被災地の復興に向けた安倍政権の取り組みに対しても、「あまり評価しない」が45%、「まったく評価しない」が11%を、それぞれ占めていた。

 いったいどういうことなのだ。実際に推進されている具体的な政策や、それらの裏付けている思想には共感していない有権者が、にもかかわらず安倍政権を支持している構図。今に始まった傾向ではないこと、改めて指摘するまでもない。

 政治と国民の関係とは所詮こんなものなのかもしれない、とは思う。実体よりもイメージ。古代ローマ時代以来の統治の要諦「パンとサーカス」が今なお罷り通る悲しい真実。とはいえ、それで済ませてよい時代と、済ませてしまうわけにはいかない時代とがあるはずだ。現代の日本は明らかに後者である。

 マスコミや野党勢力から権力に対するチェック機能が失われたとされる近年の定説は、残念ながら正しい。もはや数少ない安倍批判の中でも、私はとりわけ、彼が日本を「戦争のできる国へ」導こうとしているのではないかという疑念――「積極的平和主義」の本当の意味――を、徹底的に検証しておく必要を感じた。

 いつの間にか戦争や愛国心に関わる話題が絶えなくなり、あからさまな差別的言辞が溢れ返っている日本。閉塞感に満ちた社会にあって、事の重大さに照らし一般にはさほど問題視もされていない時代の奔流に耐えきれず、ならばジャーナリストを自称する者の出番だと信じたのである。

 仮説を検証していくアプローチは、時に思い込みが先行し、まず結論ありきの言説に陥りやすい危険を伴う。そうならぬよう最大限の努力を払ったのは当然で、するとはたして、意外な発見がいくつもあった。安倍政権が解釈改憲の次に目指すと見られる憲法改正のための草案作成の中心人物たちや、イラク戦争で海上自衛隊の護衛艦が横須賀基地からペルシャ湾に向かった際、「皇国ノ興廃コノ一戦ニアリ」と叫んだ元防衛庁長官とのインタビューなど特に、読者に満足していただけること請け合いの内容と自負している。

 いずれも事前には予想もしていなかった秘話や思いが語られた。質問を重ねながら興奮した。「戦争のできる国へ」の危惧を強調しながら不謹慎の謗りを免れないとは自覚しつつ、それでも言いたくなる。ああ、これだからジャーナリスト稼業は辞められないのだ。

 今年に入って執筆が中盤を超えた頃に体調を崩してしまい、そこから脱稿に漕ぎ着けるまでのプロセスは、過去のどの作品よりも苦しかった。それだけに手応えも大きい。リリースが嬉しい。私はシベリア帰りの父と東京大空襲に被災した母の倅だし、今日までこの仕事を続けてきたのも、もしかしたら本書を書き上げて世間に警鐘を乱打する準備のためだったのかも、などと思ったりもした。

 もちろん、思ったり「も」というのは、これだけが私ではないからだ。過剰な使命感は恐ろしい。私はただ、私自身と私の愛する人々の人生を取るに足らないものと見なして、己の思い通りに操ろうとしている人々が許せないだけである。


(更新 2014/4/22 )


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