書、篆刻、陶芸といったさまざまな芸術分野において才能を光らせた、北大路魯山人は、"食"へのこだわりも強かったことが知られています。その魯山人の元で若いころ料理人として修行、料理はもちろん芸術の本質を教えてもらったというのは、老舗の茶懐石"辻留"の3代目主人・辻義一さん。



 本書『魯山人の器と料理』では、魯山人の食にまつわる考えを伝えるエピソードと共に、旬の食材を生かした料理が紹介されていきます。



 魯山人は、旅館や料理屋で一筆求められた際も"持ち味を生かせ"と揮毫するのが常だったというほど、素材そのものの味を生かすことを大切にするよう説いていたといいます。



 実際に辻さんも「すべての素材は各自独特の味、持ち前の味をもっている。これを生かすことが大切である。少なくとも損じてはいけない。何百何千となる魚類や野菜はひとつひとつ、異なった特有の持ち味を身につけて生まれている。この特有の持ち味に着眼することが肝心である」(本書より)と教えられたそう。



 こうした言葉を受け辻さんは、鮮度のよいものだけが持っている素材の甘さを生かすように心がけているとか。



 また魯山人は、料理そのものだけでなく、料理を盛りつける器にもこだわりが。料理の邪魔を決してすることなく、料理と一体化するような器を自ら数多く創作しました。



 そこで辻さんは、そうした器への料理の盛り方のポイントとして、本書の中で次の10点を挙げます。



① 料理にそぐわしい器を選ぶ

② 熱いものを盛りつける時は、器を温めておく。冷たいものを盛りつける時は器を冷やしておく

③ 器を熱くしたために、器が乾いてしまう場合がありますが、なるべく濡れた状態がよい

④ 器いっぱい山盛りに盛るのではなく、三割くらいの余白を取っておく

⑤ 自然に近く盛る

⑥ 味の上からも香辛料は必要ですが、季節によって、木の芽や柚子を添えることは、明色をあしらうという色彩効果となる

⑦ 平面的ではなく立体的に盛る

⑧ 器との配色、盛り合わせるものの配色を考える

⑨ 盛り合わせるものの形は同じにならないように

⑩ きれいではなく美しく、おいしそうに盛る



 さりげなく、それとなく美しく、自然体な盛りつけ。なかなか難しいですが、本書には実際に魯山人の器に盛りつけた写真も紹介されているので参考にしてみてはいかがでしょうか。旬ならではの食材を生かした料理、そしてその盛りつけ方、器づかい。魯山人の芸術の本質を"食"から感じてみませんか?