6月22日に、内閣府が公表した「結婚・家族形成に関する意識調査」。20歳~39歳が対象の同調査によると、37.6%の男女が「恋人が欲しくない」と回答し、その理由については、「恋愛が面倒」という答えが最多で46.2%に達しているほか、男性では「気になる人がいても、どのように声をかけてよいかわからない」や、「どうしたら親しい人と恋人になれるのかわからない」という項目も20%を超えています。




 この結果を、単純に"若者の恋愛離れ""草食化"と結び付けるのは、あまりにも性急すぎますが、一方で、"女性と付き合えない""セックスできない"独身男性も確実に存在しています。本書『ルポ中年童貞』によれば、性交経験がない男性はここ20年間上昇中で、いまや未婚男性の"4人に1人がセックスを知らない"状態なのだとか。




 著者の中村淳彦さんは、これまでにも数多くのセックスワーカーに取材を重ね、『日本の風俗嬢』(新潮社刊)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ刊)などの著作もあるフリーライター。介護事業所の管理者の経験もある中村さんは、介護施設で働く中年童貞の多くが「決定的に物事の考え方や行動がズレている」ことにショックを受け、取材を開始。本書では、同性愛者を除き「女性と交際した経験がなく、性風俗にも行ったことのない30歳を超えた真正童貞男性」を中年童貞と定義し、彼らの実態を明らかにしています。中村さんによれば、人材不足が慢性化している介護業界では、不況によるリストラや能力が低いなどの理由で解雇された人でも採用されやすいので、一般の企業での就労が困難な人々が集まり、社会で行き場を無くした中年童貞の受け皿となる傾向にあるのだとか。




 セクハラやイジメを繰り返し職場のトラブルメーカーになっている介護職男性をはじめ、高学歴で理系の研究職に就いているが健全な人間関係を築けない男性など、本書に登場する中年童貞のタイプはさまざま。なかでも印象に残るのが、元AV男優の男性です。童貞を捨てるために、29歳でAV男優を志し、素人男優オーディションに応募。採用後は出演を果たしたものの、ルックスが原因で相手役の女優に拒否され、何本出演してもセックスできないまま。AV男優の仕事すらできない現実に絶望して精神を病み、33歳で自殺という悲惨な結末を迎えます。




 中村さんは、中年童貞の背景には、異常なまでのプライドの高さ、コミュニケーション不全、潔癖な女性観があると述べ、童貞をこじらせた結果、屈折しすぎて心を病んだり、自分の世界に閉じ籠もったりする中年童貞よりも、「モテないことを自覚して、性欲を肯定して性風俗に行きまくる、みたいな男性の方がまともであることはいうまでもない」(本書より)と訴えています。




 しかし、なぜ彼らはこうならざるを得なかったのか。中年童貞というだけで、社会では色眼鏡で見がちですが、彼らを取り巻く過酷な現状にも、目を向けることが必要なのかもしれません。今後の彼らを考える上でも、本書はその一助となる1冊と言えるでしょう。