8月8日に開幕する第95回全国高校野球選手権大会。注目は、史上7校目の夏連覇を目指す大阪桐蔭、同8校目の春夏連覇を狙う浦和学院、センバツ準優勝の済美といったところでしょうか。また、センバツ8強の北照、仙台育英など強豪校も順当に出場を決めており、今大会もハイレベルな試合が続きそうです。



 毎年、多くのドラマが繰り広げられる同大会。この桧舞台で主役となるのは、もちろん選手なのですが、監督の存在も忘れてはいけません。高校野球界には多くの名監督がおり、それぞれ指導方針も異なります。そんな監督から、日々指導を受ける選手の行動や発言を見ていると、監督の"色"が見えてくることがあります。



「うまい選手はいらない、強い選手しか使わない」書籍『心をつかむ高校野球監督の名言』より)



 こう語るのは、東北地方の学校では初となる5季連続の甲子園出場を決めた、聖光学院の斎藤智也監督です。



 監督は、「情熱がすべてで、技術は二の次、俺が欲しいのは強い人間だ」と公言しています。うまい選手よりも強い選手。つまり、聖光学院では「人間力」が重視されているのです。有望株として1年生から育てられてきたような選手は、自意識過剰で自己評価が高いために、それを厳しく諭すと泣いてしまうなど、人間的な弱さが出てしまうといいます。同校では、伝統的にそういった選手を使わないといった決まりがあるのです。



「勝負の世界において『人間力』を追求する価値観は何かというと、最終的に前後裁断として、今という時間に集中して、命がけで生ききる人間になれるか。これがゴールなんだよね。感謝、謙虚さ、思いやり、やさしさ、強さ、柔和さ、りりしさ、ユーモア、雄々しさ......それも求めているのは、今この時間に命がけで、一瞬、一瞬、分断して生きられる人間になってほしいから。グラウンドの中でどのチームよりも動じないで立っていてほしいから。それが最初の願いなんです。



動じてほしくないから感謝してほしいし、りりしくあってほしい、柔和であってほしい。どんな不都合なことでも自分の必然だと思って受け止めるという感覚を養ってほしい。最終的にそこに行きつくには、今を本当に真剣に、ウン秒という単位を生ききるしかないんです」(斎藤監督)



 私立の強豪校のように技術・体力を兼ね揃えた選手を揃えられない同校。強豪校と互角に渡り合うためには、心の強化が必要不可欠なのです。



「強いとは、心が強い、動じない、屈しない、攻めるというほかにやさしさでもあると思います」と斎藤監督。やさしさとはつまり、チームメイトを思いやる力であり、仲間が最高のプレーをするために、自分に何ができるかを考える力です。



 こんなシーンがありました。2010年の夏の甲子園・履正社戦。8回2死から星が死球で出塁。打席には前の2打席でファーストストライクを打っていた8番の板倉が入りましたが、この打席では2ストライクまで打ちませんでした。その背景には、「星がデッドボールを食らって痛そうだったので、治療の時間が必要だなと。時間を取りたかったので、すぐに打たず、2ストライクまで見て、粘っていこうと思いました」という板倉の考えがありました。



 星は正捕手。終盤に守りの要が抜けるのはチームにとっては痛手です。四死球のあとは甘めのボールが来る可能性が高いため、バットを振るのが鉄則ですが、ここで板倉はチームを優先したのです。斎藤監督の指導から、こういった気遣いができる選手が育ってくるのでしょう。



 今年も熱戦が期待できる高校野球。選手の行動を目を凝らしてみていれば、監督独自の指導方法が見えてくるかもしれません。