
「小劇場も大劇場も宝塚も歌舞伎や能のような伝統芸能も、ありとあらゆるジャンルの舞台を観るのが好きでした。ただ、当時僕が不思議に思ったのは、『全部のジャンルをやっている役者はいない』ってこと。もちろん、演劇というジャンルがすごく多彩で、百花繚乱で面白いけれど、その分、『将来は舞台俳優になりたい』と漠然と思った若い世代にとっての“大通り”がなかった。好きな劇団の門をたたくことはできるし、ミュージカルのオーディションに応募もできるけれど、俳優になるための入り口は細分化されていますよね。それに、日本では芸能と演劇は切り離せないと思っている人が多いみたいで、『舞台は修業の場』『舞台に出て、有名な演出家に鍛えられて箔をつける』と考えている若手も多い。でも僕は、そういう話を聞くと、本当に悔しいなって思うんです」
成河さんは、自分が芸能人であるという自覚は全くなく、芸能とは切り離して演劇をやれている自分のことを「恵まれている」と語る。
「純粋に、『演劇をやりたい!』と考える若手に、声を大にして、『全然やれるよ。この道あるよ』って言いたいです。もちろん、自分の仕事の最終目的地が映像の人はそれを目指せばいいと思うけど、もっと、『最終目的地は舞台』と堂々と言える人が増えてほしい気持ちはあります。世界的に見れば、『芝居の最終目的地は舞台』という考え方の人が多数派を占める国なんていくらでもあるんですから。まだ、舞台だけで食べていくのは大変というイメージはあるかもしれないけれど、少なくとも僕はやれているので。そのことを、ちゃんと教えてあげられる人でありたいです」
(菊地陽子 構成/長沢明)
※記事の後編はこちら>>「野田秀樹、つかこうへいから成河が得たもの『それから復讐劇が始まった(笑)』」
※週刊朝日 2023年4月21日号より抜粋