撮影/加藤夏子
撮影/加藤夏子

 二つ目が、四季の移り変わりに敏感なこと。

「日本人ほど、桜の花を愛でる民族も珍しいですが、そこに人生観を重ね合わせていることが、何よりユニークだと僕は思います。満開の桜の美しさの中に、散りゆく儚さも見てとって、今生きている時間がいかに愛おしいものかを痛感する。これは、日本人の大変発達した特性の一つではないかと思いますね」

 三つ目が、時間に対する感性だ。

「時は移り変わっていくものであり、常に同じものはないという無常観は、日本では平安時代から表現されています。そこを、僕らは抵抗なく理解できる。人生の時間の中に独特な美を見つける感性は、日本人なら誰しもが持っているもの。メシアンは、『そういう感性を音楽に生かせることは、とても有意義なこと。クラシックが西洋で生まれた音楽だからといって、西洋人のマネをする必要はない』と言いたかったのかもしれないですね」

 そして最後が、日本の伝統文化。

「長く続いてきたものを、教養ある西洋人はとても尊敬します。伝統文化というのは、時間をかけない限り生まれないものだからです。いくら優秀なコンピューターを使っても、1千年という歴史を実際に刻むことはできない。日本には、伝承された文化が、文学にも音楽にも建築にも美術にも残っているわけです。20代のときはその価値に気づけなかった。ルーツや伝統のありがたみを実感するようになったのは50代になってからなので、『遅い!』と言われるかもしれないですが」

撮影/加藤夏子
撮影/加藤夏子

(菊地陽子 構成/長沢明)

※記事の後編を読む>>「最高のピアニスト・加古隆が大人へ送る『好きなものを見つける方法』」はコチラ

週刊朝日  2023年4月7日号より抜粋