2011年3月23日宮城県石巻市の様子(撮影/芳賀朋之)
2011年3月23日宮城県石巻市の様子(撮影/芳賀朋之)

 東日本大震災から12年が過ぎた。被害の記録は私たちの脳裏だけでなく、デジタル空間にも残されている。しかし、記録は集めて終わりではない。震災の経験を、後世へとつなぐための活用の取り組みを取材した。

【震災の記憶を後世につなぐ。定点撮影した宮城県石巻市の様子はこちら】

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 東北大学災害科学国際研究所が運営する「みちのく震録伝(しんろくでん)」というサイトがある。トップページの検索窓に、

「瓦礫 仙台」

 と入力すると、2260枚の写真がヒットした。その1枚をクリックすると、仙台市宮城野区の海岸公園にうずたかく積まれた瓦礫に、カラスが集まっていた。撮影時刻は2012年3月15日午後2時9分。東日本大震災による大津波が沿岸を襲って1年経ってもなお、復興が進んでいない様子がわかる。写真の隣には撮影場所を示した地図も表示されている。

 震録伝には被災地の写真約14万7千枚、動画約1千本が掲載されている。いずれも被災者や自治体などから寄せられたものだ。こうした貴重な記録をサーバーに保管して公開する仕組みをデジタルアーカイブという。

 デジタルなら、実物の写真のように劣化せず、世界中からアクセスできる。東北大は11年9月から構築を始め、各地もこぞって立ち上げた。一時は約50ものプロジェクトがあったという。

 だが震災から年月が過ぎ、閉鎖も増えている。最近だと、22年に「茨城県東日本大震災デジタルアーカイブ」と「東日本大震災アーカイブFukushima」が閉鎖された。

 震録伝の運営を担当する柴山明寛准教授は、デジタルアーカイブを続ける難しさの一つに、維持費の高さを挙げる。サーバーの保守費用などで年数十万~数百万円は必要で、人件費も加わる。震録伝も人件費を含めると数百万円かかっているという。さらに自治体の首長や担当者が代わり、「当初の目的や意義が組織のなかで薄れてきてしまっている」とも言う。

 震録伝を利用しているのは主にマスコミや震災の伝承施設だ。一般利用はあまり進んでいないが、柴山准教授は「利用者数が増えればいいという単純な話ではありません。重要なのは防災・減災効果があるかどうか。そのために、誰でも使いやすくて情報の発見と活用をしやすい環境を整える必要があります」と話す。

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唐澤俊介

唐澤俊介

1994年、群馬県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。朝日新聞盛岡総局、「週刊朝日」を経て、「AERAdot.」編集部に。二児の父。仕事に育児にとせわしく過ごしています。政治、経済、IT(AIなど)、スポーツ、芸能など、雑多に取材しています。写真は妻が作ってくれたゴリラストラップ。

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