岸田首相
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 国会に提示された、日本銀行の次期総裁人事。元日銀調査統計局参事の菅野雅明さんが新総裁が直面する三つの課題について指摘する。

【写真】日銀の次期総裁候補の植田和男氏

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 日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁の課題は、市場や国民に対する説明責任への配慮が欠けていた点です。

 とくに任期後半で政策に手詰まり感が出てくると、マイナスの面が目立つようになりました。22年12月に長期金利の許容変動幅を広げたり、今年1月に共通担保資金供給オペ(公開市場操作)と呼ぶ政策手段を拡充したりしたことについて、「金融緩和の出口や修正を意味するものではない」などと説明しても、誰も納得しません。

 市場関係者の間では事実上の修正にあたると受け止められており、「言っていることとやっていることが違う」とネガティブに捉えられました。日銀に対する信頼が揺らいでいる今こそ、新総裁にはより丁寧な説明が求められます。

 国会には次期総裁候補として経済学者の植田和男氏が提示されました。学者の起用は戦後初で意外感があります。欧米など海外では、学者が中央銀行トップに就く流れは一段落した印象があるためです。理論で割り切れない課題は増え、その限界や受け手の反応を見極めながら政策を考える必要がある。政治との距離感も重要です。政治家のバックには国民がいて、その意見は無視できない。理論と、現実や政治とのバランスを取る難しい場面が出てくるでしょう。

 新総裁が直面する課題は三つあります。まず、マイナス金利政策を解除すべきかですが、現在は政策変更のタイミングではないと考えています。今年後半にかけて米金利の引き上げの影響が表れ、景気減速が見込まれるなか、日銀があえて利上げに踏み切れば、市場に間違ったメッセージを与えかねません。

 次に、長短金利操作の修正です。市場ではすでに修正は織り込まれ、それがいつかが焦点となっています。修正を見込んで国債は売り込まれ、日銀が買い支えているのが現状で、時間がたつほどコストも市場への副作用も膨らむ。修正するなら、早ければ早いほうがいい。黒田総裁が退任直前の3月の金融政策決定会合で修正に踏み切ってもいいし、新総裁就任直後の4月の会合や臨時会合で行ってもよいでしょう。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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