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COVER STAFF 撮影/桑島智輝 スタイリング・着付け/大塚 満 ヘアメイク/山崎 聡(sylph) アートディレクション/FROG KING STUDIO

──原作では、梅安は35歳くらいで彦次郎は40代半ばくらい。今回、梅安が彦次郎よりも年上という設定はどうでしたか。

 それについては僕は全然意識しなかったです。この二人の不思議な強い絆というものは、年齢を超えているんじゃないかなと思います。池波先生の原作でも、二人の年の差というのがまったく感じられません。

 アメリカ映画では、初老の男性と少年のように、バックグラウンドや年齢がまったく異なる二人がバディになったりするじゃないですか。そういうバディ物みたいに、梅安と彦次郎が見えればいいという思いがありました。

──豊川さんは60歳。今回の共演の柳葉敏郎さんと佐藤浩市さんが62歳で、椎名桔平さんが58歳。同世代同士で、よく交わした話題は何でしょう。

 俳優として過ごしてきたキャリアがほぼ一緒ですし、これまで何度も共演してきましたから、このメンバーでは演技論とかは絶対しないんですよ。お互いの仕事をリスペクトしているので、とやかく言うことはない。

 で、何の話をしていたかというと、防寒具自慢(笑)。冬の京都での撮影でしたから、とても寒かったんです。草鞋(わらじ)だけでは、とてももちません。凍っていたり、雪が積もっていたりしていましたし。それで草鞋の上に防寒用のブーツを履く。ネット通販でこれを見つけたとか、そのブーツはボア付きでとっても暖かそうですねとか。そんな話ばっかりでした。

──池波正太郎といえば食通としても知られています。今作では、鯨骨の吸い物やハゼを食べるシーンも出てきます。再現された江戸料理はどうでした?

 池波作品に登場する料理に関する著書(共著)もある「分とく山」の野崎洋光総料理長が、京都の撮影所までいらして、材料の調達から料理までされていました。野崎さんはすごくこだわる方で、江戸時代にはなかった調味料や食材はなるべく使わないようにして、当時の味を再現してくださいました。ですから料理も出演者の一人だったと思いますね。

 撮影中、蓋(ふた)を開けることもない鍋料理があるのですが、その中身も全部作ってくださったのはすごいと思いました。

 以前読んだ本に書いてありましたが、小津安二郎監督は、絶対開けることのないタンスの中にも上等の着物を詰めた。空のタンスなんか使わなかったそうです。映らないんだからそんなものは全然必要ないという人もいるでしょうけど、やっぱりそういうものは映画の中で映っていると思います。今回の野崎さんのお料理もほんとうにそうでした。愛之助さんとはよく「これを食べないでこのまま置いておくのはもったいないね」と話しながら、いい匂いが立ち込める撮影所から楽屋に引き揚げました。

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