浅野和之(撮影/張溢文)
浅野和之(撮影/張溢文)

 実際、浅野さんは、どんなに小さな役であれ全力を尽くし、それを見ていてくれた三谷さんが、書き下ろしの舞台に大抜擢したわけだ。

「稽古の最中も、大きな変化が毎回あるわけじゃない。でも芝居だと、何度も稽古を重ねているうちに、昨日は見えなかったものが、ポンッて見えたり。『あれ? このセリフ、今日は自分の中にすごく素直に入ってくるぞ』とか、『こっちに動いたほうが正しいかもしれない』とか。人生を変えるような大きな発見ではなく、すごく小さなことですけど、自分の中で、見え方や考え方が変わっていく。またいい脚本っていうのは、どんどん掘っていくと、その登場人物が隠し持っている、いろんな宝物が出てくるんですよ。三谷さんの戯曲はとくに、その宝物探しが楽しみです」

 今回の「ショウ・マスト・ゴー・オン」で、浅野さんは終盤に登場する医師の役だが、浅野さん曰く、作品自体は「舞台の裏方さんたちへのオマージュ」なのだそう。

「人間ドラマを描くことを得意とする三谷さんの舞台の中でも、かなり純度の高い“喜劇”という感じがします。僕らの世代は、今の人は知らないかもしれないけど、『てなもんや三度笠』とか『デン助劇場』、もう少し新しいものでは『ゲバゲバ90分!』とか、テレビで良質のコントをいろいろやっていた。三谷さんの喜劇は、あの頃のコントに通じる部分もあるような気がします。最近はいろいろと、日々の生活に余裕のなさを感じてしまう時代ですが、笑える瞬間というのは、明日への希望というか、心に何かしらの余裕が生まれるものだと思う。ただ、笑える仕掛けは満載だけど、この舞台に関しては、感動することはないでしょうね(笑)」

浅野和之(撮影/張溢文)
浅野和之(撮影/張溢文)

(菊地陽子、構成/長沢明)

週刊朝日  2022年11月11日号より抜粋