物議をかもした安倍晋三元首相の「国葬」実施は、岸田文雄政権を窮地に追い込む結果となった。旧統一教会との関係をめぐる問題にも解決策を見いだせない中、最大派閥である安倍派の後継者争いも激化が必至。揺れる自民党は「崩壊」に向かうのか──。
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「今は耐えるしかないな……」
毎日新聞の世論調査の結果が事前に出回った9月18日午後、岸田文雄首相は側近の木原誠二官房副長官にうつろな表情でこうつぶやいたという。内閣支持率は、前月より7ポイントも低い29%。危険水域と言われる20%台まで初めて下落し、不支持率は60%を超えた。
凋落の一因は、国民の異論を無視して実施を決めた国葬にあることは間違いないだろう。加えて、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と自民党議員との癒着についても次々と「疑惑」が噴出。解決の道筋が見えない中、10月3日には臨時国会が召集される。政治評論家の小林吉弥氏が語る。
「臨時国会は岸田政権にとってまさに薄氷を踏む場だ。教団との接点が次々と判明している山際大志郎経済再生相などは厳しく追及されるでしょうし、野党が教団関連の隠し玉を持っていたら、山際氏の首だけでは済まない厳しい状況に陥る」
危機管理体制の甘さがこの事態を招いたとも言える。政府関係者によると、官邸は8月10日の内閣改造を前に、内閣情報調査室や公安調査庁を中心に現職閣僚や閣僚候補者の身体検査を行った。その時点では、山際氏は「見落とされていた」のだという。その後、山際氏の地元事務所に勤める私設秘書が旧統一教会関係者ではないかと8月末に報じられた件については、同月中旬には官邸の耳にも情報が入っていた。山際氏は松野博一官房長官に「これ以上迷惑をかけられない」と一時は辞意を示したが、官邸としては「辞めると野党を勢いづかせてしまう。連鎖反応も心配だ」(政府関係者)として慰留した経緯もあるという。
岸田首相だけでなく、党内最多の97人を擁する安倍派も正念場に立たされている。党内では「旧統一教会といえば安倍派案件」(同)と言われ、党が実施した点検でも6派閥中最多の37人の名前が公表された。派閥の領袖候補である萩生田光一政調会長、下村博文元文部科学相らも名を連ねている。